森田想の人の神経を逆なでする演技が最高すぎる…全く他人事には思えないドラマ『3000万』の真髄とは? 第3話考察レビュー
ソラ(森田想)の神経を逆なでする演技が上手すぎる…!
また、この第3話で印象的だったのは森田想の演技だ。夫婦の運命を握っていることをいいことに、ソラはやりたい放題。祐子に対する高圧的な態度はもちろんのこと、表情やセリフの言い回しなど何から何まで人の神経を逆なでする演技が上手すぎる…! そんなソラから海外に逃亡するから、実家にあるパスポートを取ってきてほしいと頼まれる祐子。「母親に渡せばわかる」と渡された手紙には、山崎美姫という彼女の本名が書かれていた。美しい姫と書いて美姫。その名前だけを見ると相当親から愛されていたのではないかと想像してしまうが、実際に祐子が会った母親(片岡礼子)は娘に対して無関心な様子だった。 知らない人が娘のパスポートを突然取りに来たというのに大人しく従い、祐子にソラもとい美姫に伝えたいことを聞かれ、「もう迷惑をかけるのだけはやめて」と素っ気なく答える。たしかにどれだけ美姫を育てるのが大変だったかは想像もつくが、それにしても冷たすぎるような気がしなくもない。 他方で美姫は母親のことが嫌いではないようで、祐子が気を遣って「心配してたよ」と告げると嬉しそうにしている。その瞬間だけは美姫が普通の女の子に見えて、なんだか憎めなくなってしまった。 なおかつ3000万を自分のものにすると決めてからもブレブレな祐子とは違い、肝が据わっているところも美姫の魅力の一つ。お金を誰かから盗んだこと自体は許される行為ではないが、少なくとも犯罪に手を染めたからには家族や友人と会えなくなることはもちろん、蒲池のように邪魔する人間を最悪の方法で排除しなければならないことも覚悟している。それだけの覚悟をさせる理由が彼女にはあったのだろう。
坂本(木原勝利)の魔の手がすぐそこまで来ている…。
一方で、純一に買ってあげたいと願う祐子にかけた「せっかくだからいいの買いなよ。そうじゃなきゃ意味わかんないじゃん。こんなことになったのにさ」「あいつが死んだの、あたしたちのせいじゃない。どうしようもなかったよ」という言葉は自分にも言い聞かせているようにも見えた。自分勝手だけど、強がって自分の弱さを隠すような人間味もあり、ダメなのにどうしようもなく惹かれてしまう。 祐子もそんな美姫の言葉に背中を押され、例のお金からグランドピアノを購入。だがその直後、美姫が厳重に隠していた残りのお金を巧妙に見つけ出し、全て持ち逃げする。油断した…!と多くの人が祐子と同じ気持ちになったのではないだろうか。だけど、小山田壮平の「君に届かないメッセージ」をバックに旅立つ彼女を応援したい自分もいる。翻弄されっぱなしだ。 さらには義光がどうせ後でお金が入るからと仕事を辞め、機材の購入やプロデューサーに支払うお金を工面するため貯金に手を出したことが明らかに。実はお金を入れた袋に祐子はGPSを仕込んでおり、美姫の居場所はすぐにわかったが、後は追わなかった。 蒲池のことがあってからフライパンを見るだけで動悸が止まらない祐子。それくらい直接的な原因ではないかもしれないが、一人の命を奪ってしまった事実は彼女にとってショックが大きかったのだ。だからもう全て終わりにして、あの忌々しい記憶を消し去りたかったのだろう。 ラストで、純一がグランドピアノで奏でる「主よ、人の望みの喜びよ」の音色も、それを隣で聴く祐子の表情も未だかつてないほど穏やか。なのに不安なのは、美姫の行方を追う坂本(木原勝利)の魔の手がすぐそこまで迫ってきているから。 美姫と蒲池が失踪したことで降格され、なおかつ刑事の奥島(野添義弘)と野崎(愛希れいか)にも目をつけられて坂本はアンガーコントロールが効かなくなっている。そんな彼が美姫と祐子たち家族の繋がりに気づいたらどうなるか…考えただけでも恐ろしい。 【著者プロフィール:苫とり子】 1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。
苫とり子