新型ティグアンは実にフォルクスワーゲンらしい誠実なSUVだった!!! ヒットの予感しかない最新モデルに乗った!!!
フォルクスワーゲンらしい“しっかり感”
最初に試乗したのは、1.5リッターのマイルドハイブリッド・ガソリンエンジンを積んだ上級グレードの「エレガンス」。車内に乗り込むと、まずは12.9インチの大型タッチディスプレイがダッシュボードの高い位置に取り付けられていることに気づく。しかも、プラットフォームのエレクトロニクス部分が刷新されたおかげで、インフォテインメント系の操作ロジックも全面的に見直され、圧倒的に扱いやすくなった。従来型のインフォテインメント・システムは「どこを操作すれば何が変わるか?」が、わかりにくかったので、この点は飛躍的な進歩といっていい。 快適性も上々だった。最新のゴルフやI.D.4は、足まわりやボディの質感があまり高いとは感じられないほか、足まわりがポンポンと弾むような乗り味で、それまでの重厚感溢れるフォルクスワーゲンとは一線を画していたが、2台を比べると、新型ティグアンにはフォルクスワーゲンらしい“しっかり感”が戻ってきたように思えたのだ。 乗り心地自体はどちらかといえば最新の“ポンポン系”に近いが、「ゴルフ8」や「I.D.4」に比べれば明らかに落ち着きを増している。軽快なハンドリングがトレンドとなっている現在、フォルクスワーゲンとしても従来のテイストを見直さざるを得なかったのだろう。この辺の受け止め方は、乗り手の世代によっても異なるような気がする。 エンジンは静かで滑らか。2気筒分のシリンダー休止機構が作動しても、エンジンそのものが休止と再始動を繰り返しても、ほとんど気づかなかった。また、モーターで走っている感覚が、なぜかゴルフのマイルドハイブリッド仕様よりも薄かったことは意外だった。それでも低速域ではモーターがしっかりとアシストしてくれるようで、ガソリンエンジンでも物足りなさは覚えなかった。 もう1台、試乗したのはディーゼルエンジンを搭載したスポーティなRライン。日本で「スポーティ仕様にディーゼル」と聞くと不思議に思われるかもしれないが、ドイツではごく一般的なこと。新型ティグアンの場合も、排気量がガソリンの1.5リッターに対してディーゼルは2.0リッターとされていることもあり、最高出力と最大トルクの両方でディーゼルがガソリンを凌いでいる。 その差は歴然としていて、低い車速からもグイグイと加速していく力強さが心地いい。ディーゼルエンジンといっても、以前に比べれば振動やノイズは十分に抑えられていてほとんど気にならないほか、エンジン回転が上昇するスピードも格段に速くなっているので、日本でも多くの人たちに“スポーティエンジン”として受け入れてもらえそうな気がする。 ご存じのとおり、フォルクスワーゲンは電動化に向けて急激に舵を切っており、2033年から2035年の間にヨーロッパ市場向けエンジン車の生産を終了すると宣言している。その意味でいえば、エンジン車の終焉がすでに視野に入っているわけだが、そうしたなかでもエンジンの進化に積極的に取り組んでいることが、新型ティグアンに試乗してよく理解できた。 これこそ、フォルクスワーゲンらしい誠実なクルマ作りの姿勢であるといっていいだろう。
文・大谷達也 編集・稲垣邦康(GQ)