『海のはじまり』第3話 2つの“ぎゅっと握りしめる”シーンに込められた繊細な演出
夏のキャラクターとしての変化
今回のエピソードのクライマックスは、夏が海に「なんで元気なふりするの?」と問いかけるシーンだろう。「水季死んで、悲しいでしょ?何をしていても、思い出してきついと思うし。何で?泣いたりすればいいのに」。デリカシーのない言動に感じた弥生は、慌てて「やめなよ」と制止するが、夏はやめない。「元気ぶっても意味ないし。水季の代わりはいないだろうし。水季が死んだってことから気を逸らしたって、しょうがないし。悲しいものは悲しいって、吐き出さないと」。 ふだんの夏なら、弥生に注意された時点ですぐに「あ…そうだね…ごめん…悪かった…」と歯切れの悪い返事をしていたことだろう。だが、少しずつだが父親としての自覚を抱くようになってきた彼は、毅然とした表情で、でも柔らかな口調で、海に「泣いていいんだよ」と語りかける。確実に夏は、<選択>するキャラクターへと変化している。 これまで抑えてきた感情が溢れた海は、泣きながら夏にしがみつく。シャツの背中をぎゅっと握りしめる。実はオープニングでも、抱きしめられたときに海は水季のシャツの背中をぎゅっと握りしめていた。母を抱きしめ、父を抱きしめるとき、彼女は「どこにも行かないで」という思いを、“シャツの背中をぎゅっと握りしめる”という行動で示すのである。 実はこの第3話では、もうひとつ“ぎゅっと握りしめる”シーンがある。水季の母・朱音が、「30年前、ベビーカーみるとイライラしていた」と心のうちを吐露するとき、思わず洗濯物のえりをぎゅっと握っていたのだ。気持ちの高まりを、役者のセリフやクローズアップだけで見せるのではなく、その指の動きや仕草でも表現する。なんともきめ細やかな、繊細な演出! 視聴者の心のひだにそっと触れるような静謐なトーンで、第4話以降も夏、海、弥生の物語が紡がれることになるだろう。
竹島 ルイ