ミルクボーイ駒場孝の「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」 第11回「THE FIRST SLAM DUNK」
これまで名作をほぼ観たことがないまま育ち、難しいストーリーの作品は苦手。だけど映画を観ること自体は決して嫌いではないし、ちゃんと理解したい……。そんな貴重な人材・ミルクボーイ駒場孝による映画感想連載。文脈をうまく読み取れず、鑑賞後にネット上のレビューを読んでも「えっ、この映画ってそんなこと言うてた?」となりがちな彼が名作を気楽に楽しんだ、素直な感想をお届けする。 【画像】「THE FIRST SLAM DUNK」場面カット(他3件) 第11回で観てもらったのは、2022年に公開されたアニメーション映画「THE FIRST SLAM DUNK」。バスケットボールにはなじみがなく、原作やテレビアニメ版についてもうろ覚えだという駒場だが、本作の演出や、リアルな3DCG表現などには思わず驚愕。普段は映画初心者ならではの素直な感想が多い彼には珍しく、音や色の使い方について映画評めいた分析も飛び出した。 文 / 駒場孝(コラム)、松本真一(作品紹介、「編集部から一言」) ■ 世代のはずなのですが、マンガもアニメも通ってきませんでした こんにちは、ミルクボーイ駒場です。今回鑑賞したのは「THE FIRST SLAM DUNK」です。2022年に公開されとても話題となり、今年8月にもまた上映された作品です。現役でバスケをしている人はもちろん、昔バスケをしてたという人などからすると「SLAM DUNK」はバイブル的な存在でしょうから、この「THE FIRST SLAM DUNK」は何がなんでも観に行かれたと思います。しかし僕自身バスケとは本当に縁がなく、家族や親戚にもバスケ経験者はおらず、バスケ部の友達すらもあまりいませんでした。体育の授業でやって突き指したり、体育館の床で滑って転んで、キューという感じで皮膚を持っていかれ熱々になってひざがピカピカになるタイプのすり傷をしたみたいな思い出があるくらいで、かっこいいけど難しいしハードなスポーツだなというイメージでした。マンガの「SLAM DUNK」も、僕らの世代ならだいたい読んでいるはずなのですが、僕は読んでいません。正確に言うと、まったく読んだことがない訳ではなく少しだけ読んだことがあるという感じです。自分の家にはジャンプも単行本もなかったので、友達に借りたんだと思います。ただ完全に読破はしてないけど「バスケがしたいです」などの名ゼリフや、流川と桜木の熱いシーンなどは記憶にあるので、もしかしたら飛ばして読んだのかもしれません。今考えるとありえないことをしています。作者に失礼すぎるし、マンガの読み方知らんやつです。アニメ放送も世代なのですが、しっかり観たことがなかったです。オープニングテーマの「君が好きだと叫びたい」とエンディングテーマの「あなただけ見つめてる」はめちゃくちゃイメージがあるのですが、肝心の本編のイメージがあまりないです。オープニングテーマだけ観て本編を観ていなかったり、本編終わりかけに観出して次の何かを観るためにエンディングテーマを聴いていたのかもしれません。これまた失礼なことしてますね。その程度の予備知識の僕でしたが、それでも観れると思いますとのことでしたので鑑賞させてもらいました。 ■ 音や色があるところとないところのバランスが絶妙 観終わった感想はというと、とにかくめちゃくちゃ面白かったです。1つの試合が軸にあり、その中で選手の人生を紐解いていくという展開で、観進めていけばいくほど人物のことがわかっていくのでこちらも感情が乗っていき、ストーリーが進むのに比例して試合を観る熱量も高まっていきました。最後のほうは普通に手に汗握りながら、本物のバスケの試合を観ているくらいのテンションになっていました。あと話が面白かったのはもちろん、勝手ながらほかにもすごいなと思ったのが細かい表現方法で、そんなこと意図してなかったら深読みしすぎで恥ずかしいことになるのですが「音があるところとないところ、色があるところとないところ」のバランスが絶妙やなと思いました。音なんてあればあるほど臨場感が出るしリアルになっていいと思っていたのですが、違うんですね。観客席からの歓声や、キュッキュッとシューズが擦れる音、選手の息遣いなどがすごくリアルに聞こえていたと思うと、急に無音になり映像だけが進むところがあるのですが、そのときの緊張感がすごいんです。ありがちなのがそこで心臓の音などを入れる、などありますがそれもなく無音。思わず息をのんでしまう。音があるのがリアルだったはずなのに、音がないとさらにリアルになる、という不思議な感覚になりました。色もそうです。色もあればあるほどリアルで見やすいと思っていたのですが、色が急になくなってマンガのデッサンのようなタッチになったりする。そしてその無色のデッサンのようなタッチになったところからもう一度線が濃くなり人物がはっきりとし、そこに色が入っていくのですが、そのことで人物にとてつもない躍動感とスピード感が生まれるんです。ぐーっとしゃがんでめちゃくちゃためてためてジャンプしたような。全部が全部それではだめやし、ここ!という場面で使わないと最大限に効果を発揮しないと思うんです。その音と色の使い方が絶妙だと思いました。なんか熱くなって映画評らしいことを言ってしまいました。でもそんなところがすごかったです。 そして今回の「そんなこと言うてた?」ですが、「アニメってこんなにすごくなってるって言うてた?」です。あの映像はなんなんでしょう、もうアニメ超えて実写じゃないですか。アニメってこんなことになってるんですか? 自然の景色などきれいすぎて驚きました。選手の動きもめちゃくちゃ滑らかで見てて気持ちがいい動きですし、思ってたアニメという枠を大きく超えていました。そんなほぼ実写のような選手の間をかき分けてスピーディに移り変わるカメラワークがまたすごくて、リアルでは絶対無理な目線で試合に入り込める感じもすごかったです。アニメはとんでもないことになってますね。あとめちゃくちゃ個人的なことで言うと、筋肉の描き方も好きでした。三角筋(肩)や上腕二頭筋(腕)などの上半身の筋肉がリアルに描かれているのはもちろん、脚の大腿四頭筋(太もも)の内側広筋と外側広筋をしっかり分けて描いてある感じ、入り込めましたね。腓腹筋(ふくらはぎ)などをある程度描くのはわかるのですが大腿四頭筋のカット(筋肉のすじ)まで忠実に描かれているあたり、とてもいいなと思いました。映画評、筋肉評で熱くなってしまいましたが、この「THE FIRST SLAM DUNK」を観たらマンガの「SLAM DUNK」をちゃんと読みたくなったのでしっかり読もうと思います。映画もマンガも、名作というものをほぼ観ずにここまできて、逆にいろいろ楽しみが残っててある意味よかったです。これからもいろいろな作品を楽しみたいと思います! ■ 編集部から一言 「面白い」「難しくてよくわからなかった」などのシンプルな感想が多かった駒場さんが、ちゃんと「なぜこの映画に臨場感を感じたのか」を分析し、引き算の美学にたどり着いていたのは進歩を感じました。編集としてうれしい限りです。また駒場さんには、いずれアーノルド・シュワルツェネッガーやドウェイン・ジョンソンといったマッチョたちが出てくる作品を観てもらえたら筋肉芸人ならではの視点があって面白いかも……?という密かな願望があったのですが、それが「THE FIRST SLAM DUNK」の筋肉描写がリアルすぎたせいでここで叶ってしまいました。 ■ 「THE FIRST SLAM DUNK」(2022年製作) 人気バスケットボールマンガ「SLAM DUNK」の、完結後26年を経て公開された劇場アニメ。原作者である井上雄彦が自ら脚本と監督を担当した。テレビアニメ版では描かれなかった、インターハイ2回戦での湘北高校と山王工業による試合を軸にしたストーリーとなっており、主人公も桜木花道から宮城リョータに変更されている。第46回日本アカデミー賞では最優秀アニメーション作品賞を受賞するなど高い評価を受け、興行収入は2024年8月26日の時点で163億円を超える大ヒット。8月からは全国300館以上の劇場でも“復活上映”が実施された。Blu-ray / DVDは東映ビデオから販売中。またNetflixで独占配信されている。 ■ 駒場孝(コマバタカシ) 1986年2月5日生まれ、大阪府出身。ミルクボーイのボケ担当。2004年に大阪芸術大学の落語研究会で同級生の内海崇と出会い、活動を開始。2007年7月に吉本興業の劇場「baseよしもと」のオーディションを初めて受け、正式にコンビを結成する。2019年に「M-1グランプリ2019」で優勝し、2022年には「第57回上方漫才大賞」で大賞を受賞。現在、コンビとしてのレギュラーは「よんチャンTV」(毎日放送)月曜日、「ごきげんライフスタイル よ~いドン!」(関西テレビ)月曜日、「ミルクボーイの煩悩の塊」「ミルクボーイの火曜日やないか!」(ともに朝日放送ラジオ)など。またミルクボーイが主催し、デルマパンゲ、金属バット、ツートライブとの4組で2017年から行っているライブ「漫才ブーム」が、2033年までの10年を掛けて47都道府県を巡るツアーとして行われる。 (c)I.T.PLANNING,INC. (c)2022 THE FIRST SLAM DUNK Film Partners