【社説】強制不妊は違憲 国は責任直視し救済急げ
戦後最悪とされる人権侵害に対し、国の責任を厳しく断罪した歴史的判決である。 旧優生保護法下で不妊手術を強制されたのは憲法違反だとして、障害のある人らが国に損害賠償を求めた5訴訟の判決で、最高裁大法廷は旧法は違憲と認定し、国に賠償を命じた。 子を産み育てる権利を奪い、被害者の尊厳を踏みにじった責任を国は直視すべきだ。裁判を起こしていない人も含め全被害者に謝罪し、全面救済を急ぐ必要がある。 ■立法そのものを指弾 旧優生保護法は1948年、議員立法で制定された。「不良な子孫の出生防止」を目的に、精神疾患や障害があれば本人の同意なく不妊手術ができるよう定めた。戦後は人口が急増し、抑制策の中に優生思想が組み込まれた形だ。 国は本人をだましたり、拒む場合は身体を拘束したりして実施してよいと都道府県に通知し、手術を奨励した。昨年公表された国会調査報告書によると、手術された最年少は9歳の男女である。苛烈な人権侵害に言葉を失う。 判決は旧法について、個人の尊重を定めた憲法13条、法の下の平等を規定した14条に違反すると認定し、立法そのものが違法と指弾した。 被害者らが違憲と主張しても国は「当時は合法」と時代背景を言い訳にしてきた。判決は「当時の社会状況をいかに勘案しても正当とはいえない」と切り捨てた。人権侵害の法律を作った国会、施策として展開した国の責任は計り知れない。 最高裁判決の最大の争点は、不法行為から20年で損害賠償を求める権利が消滅する「除斥期間」を適用するかどうかだった。最高裁はこれまで除斥期間を厳格に運用してきたが、今回は判例を変更して適用する異例の判断を下した。 2018年以降、被害者ら39人が福岡、熊本など全国12の地裁・支部で裁判を起こしてきた。いずれも手術から20年以上が経過している。 最高裁は国が政策として障害のある人を差別し、約2万5千人の生殖能力を失わせた責任は「極めて重大」と指摘した。 その上で、1996年の法改正で強制手術ができなくなった後も長期間補償しなかったことを批判した。免責は許されず、除斥期間が経過したとの国の主張は「信義則に反し、権利の乱用で許されない」と言い切った。 画期的なのは、除斥期間についての判例を変更し、著しく正義・公平の理念に反して到底容認できない場合は適用しなくてよいとした点だ。他の裁判にも大きく影響しよう。 「人権の最後のとりで」といわれる最高裁が、被害者の苦しみに寄り添い「時の壁」を一蹴した。高く評価したい。 ■優生思想との決別を 政府と国会は、被害者に一時金を支払う救済法を抜本的に見直さねばならない。 旧法の反省から2019年に議員立法で成立した救済法は、被害者に一時金320万円を一律支給する。最高裁判決の対象となった原告の賠償額は1人最高1650万円で、大きな開きがある。原告側は一時金ではなく全ての被害者への十分な補償を求めている。救済の枠組みそのものを変える必要がある。 亡くなった被害者も多く、生存者は約1万2千人とされる。救済法の支給認定を受けた人は5月末時点で1110人に過ぎない。 社会の偏見を恐れて名乗り出られない人に加え、自身が旧法下で手術を受けたことを知らない人もいる。国は都道府県と連携し、個人情報に配慮しつつ過去の記録などから被害者を把握し、補償につなげる取り組みが求められる。 忘れてならないのは、障害がある人は排除してよいというゆがんだ優生思想を、社会が容認してきた事実である。今も根強いのではないか。市民も負の歴史から目を背けず、優生思想と決別する契機としなければならない。地道な啓発も欠かせない。
西日本新聞