スウェーデン人86歳、幸せな老いの秘訣。どこへでも「手ぶらで行かない」理由とは?
85歳で出版した終活本が世界的ベストセラーとなった、86歳のスウェーデン人イラストレーター、マルガレータ・マグヌセンが、老いを楽しむマインドや暮らしを快適にするハックを教える『スウェーデンの80代はありのまま現実的に老いを暮らす』(CCCメディアハウス刊)より一部抜粋。彼女が心がける幸せな老いの秘訣をお届けする。 スウェーデン人86歳、幸せな老いの秘訣。「髪の手入れを怠らない」理由とは?
【スウェーデン流・幸せな老いの秘訣】“手ぶらで行かない”とは?
わたしの知る― 亡くなった方ですから、知っていたと言うべきでしょうか― ひとりの聡明な女性は、きれい好きな人でした。名前をビルギッタといい、1970年代後半にわたしが初めて個展を開いたヨーテボリの画廊のオーナーでした。 ビルギッタの画廊は通りに面した、短い階段を 段降りたところにあり、作品を見にくる人々が絶えず出入りしていました。ヨーテボリでも画廊が多く集まるその通りは、売春婦たちが行き交う場所でもありました。ハイヒールを履いたブロンドの女性が、たびたび画廊を訪れて作品をながめていたのを覚えています。昼間はダークブラウンの髪をしたその女性が、スリッパでやってくることもありました。 わたしは気にしませんでした。芸術を愛する人たちは多種多様。みんな仲間です。 彼女は作品を指さして、よくこう言ったものです。「あの絵、いいわね」 わたしの作品を気に入ってくれたことも何度かあります。とても光栄でした。彼女は大好きなお客様でした。 画廊の入り口の左には、大理石製の大きなテーブルが置かれていました。焼いたメレンゲのようなライトブラウンのテーブルのまわりには、昼となく夜となくヨーテボリの著名な文化人たち(数はそう多くはありませんでした。ヨーテボリは大都市ではありませんしね)が集い、コーヒーやシェリー酒を味わいながら、芸術を語り、政治について議論を闘わせていました。 わたしは夜の集まりに出たことはありません―人の子育て中は、夜の外出などとうていできませんでした―が、そのときビルギッタが必ず口にすることばがあるのは知っていました。誰かが立ち上がり、洗面所や、画廊のミニキッチンにスナックやシェリーのおかわりを取りに行こうとすると、彼女は穏やかに、けれどもはっきりと、こんなふうに声をかけるのです。 「手ぶらで行かないで!」 画廊に飾ってある絵を壁から外して家に持って帰って、という意味ではありません。ビルギッタは、テーブルをきれいにするのをちょっと手伝って、とみんなに頼んでいたのです。どのみち中に入るのですから、ついでに何かを持っていけば片づけを手伝える、というわけ。 ビルギッタの親しみの込もった優しいお願いは、シンプルで筋が通っていました。 それに、彼女はそこにいるすべての人に同じように声をかけるのです。相手がボルボのCEOでもヨーテボリ美術館の館長でも、画廊のインターンでも芸術家でも、全員に。断る人はひとりもいなくて、みんなが片づけに協力していました。