鉄道のまち、国鉄マンが親しんだ味 味や記憶継ぐ「伯爵邸」など多様な46店 さいたまの「大宮ナポリタン」
鉄道の街、大宮。1885年に開業した大宮駅は、JRをはじめ三つの鉄道会社16路線を擁するターミナル駅。3月に延伸が実現した北陸新幹線を含む六つの新幹線が通る「東日本の玄関口」でもある。 発展のきっかけは、1894年に操業を開始した旧国鉄の車両工場(現JR東日本大宮総合車両センターとJR貨物大宮車両所)だ。大宮駅西口から北へ徒歩10分の場所にあり、最盛期には約5千人が働いていた。駅周辺には彼らが通う飲食店が軒を連ねていた。好んで食べられていたのがナポリタン。これが現在のご当地グルメ「大宮ナポリタン」のルーツだ。 ◇ 「武州うどん あかね&みどりダイニング」を営む宮桜まみ(74)はムード歌謡の歌手でもある。大宮で生まれ育った宮桜は中学時代、帰宅すると、駅西口にあった母親の店「酒場みどり」で皿洗いなどを手伝った。店は国鉄職員でにぎわい、看板娘の宮桜は「モテモテだった」と笑う。 当時のナポリタンは、ゆで置きした麺をケチャップでさっと炒めた。具はソーセージ、タマネギ、ピーマン。「忙しくて、待てない人たちだったから、ナポリタンをさっと食べてた。作るほうも大量に作れたから」と懐かしむ。
JR東日本の工場が現在の名称になったのは2004年。現在は電車の修繕が主力となり、従業員は千人程度と最盛期の5分の1になった。西口周辺の風景もすっかり様変わりしたが、大宮工場の記憶は大宮ナポリタンへと受け継がれた。宮桜の店では、うどんを使ったボリュームたっぷりの「ハンバーグナポリタン」が宴会で人気だそうだ。 ◇ 大宮駅東口の住吉通りにあるのが、レトロな雰囲気を漂わせる喫茶店「伯爵邸」。1975年の開店当初から24時間営業・年中無休を続ける。コンビニも珍しかった時代、午後9時には通りに人がいなくなった。近くの店で働くホステスらが仕事帰りに「うちの明かりを頼りにしてくれた」と、オーナーの宮城正和(74)は振り返る。若者たちにとっても、伯爵邸はコーヒー1杯で朝までいられる貴重な場所だった。 人気メニューは大宮ナポリタン。豚バラ肉、モンゴウイカ、タマネギ、ピーマン、マッシュルームなど具材たっぷりの山盛りパスタ。風味を出すためのニラがポイントだ。