がん細胞を狙い撃ち、手術なしで根治を目指す―山形大学医学部東日本重粒子センター:観光資源×医療ツーリズムで地方創生
日本が全世界の8割の治療実績
このように患者にとってメリットが大きい革新的ながん治療で、日本は世界をリードしている。というのも、日本は世界に先駆けて重粒子線の臨床応用に成功した国だからである。 1970年代に米国で始まった重粒子線の研究は、20年ほどで打ち切られた。一方、日本では1984年から研究が始まり、1994年、世界で初めて臨床現場での使用を開始。以来研究開発が進み、重粒子線治療で国際的に高い評価を得るようになる。 世界に15カ所しかない重粒子線治療施設のうち、7カ所が日本にある。治療実績を着々と積み上げ、過去に全世界で実施された重粒子線治療の8割が、日本で実施されたとも言われる。
大学病院と連携して治療戦略
そのうちの一つ、国内最新施設として山形県に誕生したのが、前出の東日本重粒子センターだ。 同センター最大の特徴は、世界唯一の“総合病院接続型施設”であるということ。センターと山形大学医学部附属病院が直結しており、医療サービスや設備などの医療資源を利用できる。そのため、持病のある患者でも安心して重粒子線治療が受けられる。工学博士・医学物理士の肩書を持つ、岩井岳夫センター長はこう話す。 「重粒子線治療では、がんの種類や進行度により、手術や薬物療法など他の療法を併用することがあります。総合病院と接続している私たちの施設では、そうした場合でも医師同士の連携がスムーズで、治療戦略が立てやすいことが強みです」
痛みなし、あおむけの楽な姿勢で治療
設備面では、世界3台目となる「回転ガントリー」を備えているところが注目すべき点だ。水平や垂直など一定の方向からしか照射できない従来の装置では、病巣にビームが当たるよう患者の姿勢を調整して照射を行う必要がある。一方、回転ガントリーなら照射口が患者の周囲を回転し360度どの方向からでも照射できるため、患者はあおむけの楽な姿勢で治療が受けられる。 同センターの回転ガントリーは、小型化・軽量化に成功した。それでもなお本体は全長10メートル、重量は200トンもある。それだけ機器が大がかりとなれば導入費用も莫大で、総事業費にはおよそ150億円が投じられた。 実際の治療は2021年に前立腺がんの照射から始まり、治療の安全性を確かめながら対象を拡大。現在は、眼球の悪性黒色腫を除く保険診療と先進医療対象疾患の重粒子線治療を提供している。 照射費用は、保険適用となる疾患で数万~数十万円。先進医療の扱いだと314万円が自己負担となる。外国人だと自由診療の扱いで費用は400万円を超えるが、それでも問い合わせは増えていると佐藤診療科長は言う。 「医師や看護師など40人近いスタッフで、これまでにおよそ1500人の治療実績があります。医療渡航者は3人だけですが、海外の医療コーディネーターを通じて既に60件を超える問い合わせがありました。多くは患者さんの全身状態や併存疾患などにより医療的判断で断らざるを得ませんでしたが、受け入れ体制が整えば、もっとこの治療を提供できるようになると思います」