総理大臣になれなかった「二人の政治家」の共通点…現役政治記者時代の読売主筆・渡辺恒雄氏の名著に記されていた「政治の本質」
---------- 読売新聞グループ本社代表取締役主筆である渡辺恒雄氏が1967年4月に刊行した『派閥と多党化時代―政治の密室 増補新版』が、4月26日に『自民党と派閥 政治の密室 増補最新版』として緊急復刊する。当時、30代後半から40代初めの政治記者で、幅広く政界を取材していた渡辺氏の分析は、「政治とカネ」や「派閥」が大きな問題となっている現代にも通用するものが少なくない。復刊した本書の内容の一部を特別公開する。 ---------- 【一覧】「次の首相になってほしい政治家」ランキング…上位に入った「意外な議員」 『「魔力ともいうべき特殊な政治力を感じた…」読売主筆・渡辺恒雄氏が分析していた、政界で権力を保持し続けるための「必須条件」』より続く…
なぜ総理になれなかったのか
翌朝、河野の確信は、見事にくつがえり、池田は佐藤を指名した。さて、私は河野がどのような表情でこの敗北を受けとめるか、と強い関心を持った。その朝の、党大会に代る議員総会に、同じ敗者であった藤山愛一郎は出席したが、案の定河野は欠席した。三十一年の岸、石橋決選以来、勝負の決した瞬間に勝者と敗者が大会の壇上で握手するという近代的習慣は、この時だけを例外として破られることになった。その日の午後、河野はさっさと郊外の競馬場に行って、スリルを楽しんでいたのである。 その一、二日あと、国会議事堂の廊下で私は河野と会った。「残念でしたネ」とあいさつすると「やあ」と軽く会釈しただけで、テレくさそうに、そそくさと行ってしまった。 大野と河野との、人柄の違いは、このように大きかった。ただ共通していたのは、どちらも、人を信じ易く、情報判断が無類に甘いことであった。 この二人の“党人”の敗北には、多くの共通点がある。まず、勝者がいずれも高級官僚出身で、かつ大蔵大臣の経験者であったこと。第二に、二人とも、現首相との密室の約束を信じ、裏切られた(または、と感じた)のであること。第三に、情況の判断が甘く参謀陣に、冷静さと勇気をもって、客観情勢に関する悲観的要素を忠言する人物が不在であったこと。第四に、いずれも、財界の正統派の支持がなく、資金力で劣ったこと。第五に、いずれも、大衆的人気においては、相手候補より優位にあったが、そんなものは、党内の政権争いには、何の効果もなかったこと……などの諸点で共通している。異なっていたのは、敗北した瞬間の、二人の感情と態度の違いだけであった。 この両者の敗戦は、戦前派としての古い党歴を持つ党人の、戦後派官僚に対する決定的な敗北を意味し、保守党内の主導権が戦前派党人から戦後派官僚へ、確実に移行したことを、はっきり示すものであった。密室の取引きに、大きく依存しようとした党人派の敗北であり、実力(金力)をバックに、正攻法で多数派工作を展開した官僚派の勝利であった。
【関連記事】
- 【つづきを読む】最も有利な「総理大臣への道」は?読売主筆・渡辺恒雄氏の名著が緊急復刊!現代にも繋がる「昭和の政治」の裏側
- 「薄暗くなったホテルの一室で老人が、顔をくしゃくしゃにして泣いていた」読売主筆・渡辺恒雄氏が現役政治記者時代に見た「最も悲劇的な光景」《『自民党と派閥』緊急復刊》
- 【最新調査】「総理になってほしい人」ランキング!18位玉木雄一郎、19位山口那津男に敗れた、「最下位」野党代表の名前
- 「総理になってほしい人」ランキング「意外すぎるトップ5」を発表!4位上川陽子、2位小泉進次郎…「小池百合子」「橋下徹」の「まさかの順位」
- ロシアの軍艦が「津波」で大破した…かつての「南海トラフ巨大地震」の「衝撃的な様相」