カメの涙を吸うチョウ、魚を捕るオオカワウソなど、アマゾンに残る野生生物の楽園
種子の街道
生物多様性に富んだナポ川は、アンデス山脈からもたらされた火山灰などの豊かな栄養分を多く含んでいる。大量の堆積物を運んでいるために、川は薄い泥の色をしているが、同じような川はアマゾン川の支流に多く見られ、「白い川」と呼ばれている。 こうした川は、効率的に植物の種子を拡散させる役割も担う。「ナポ川は“種子の街道”だと言えます。数百万粒もの種子が、この川を通ってアンデス山脈からアマゾン全域に運ばれ、拡散されているのです」と、生物学者のゴンザロ・リバス・トレス氏は言う。 川を流れる種子は、様々な種類の魚にとっても欠かせない食料源となる。そしてそれは、川の中だけでなく森全体にまで広く恩恵をもたらしている。 「魚が繁栄できるかどうかは、水中の栄養分や果実、種子の量にかかっています。川沿いの森が健全でなければ魚は減り、そうなればカワウソも獲物を十分に捕れなくなります。すべてはつながっているのです」と、リバス・トレス氏は説明する。 リバス・トレス氏が所長を務める「ティプティニ生物多様性ステーション」は、エクアドルのサン・フランシスコ・デ・キト大学が、研究、教育、自然保護を目的として米ボストン大学と共同で管理する現地調査所だ。 ナポ川の支流であるティプティニ川岸のステーションから観察する野生生物の姿にはいつも魅了されると、リバス・トレス氏は話す。学生たちも、野生のジャガーを初めて目にしたり、モンキヨコクビガメを川に戻してやったりするときなどに涙を流すという。 「学生たちは、まさかこんなものが見られるとは思わなかったとか、エクアドルにもこんな場所があるとは予想もしていなかったと言います。彼らにとって、人生を変えるような体験なのです」 ※この記事は、地球の貴重な場所を探検し、変化を科学的に調査・記録するナショナル ジオグラフィック協会のパートナーであるロレックスの支援を受けています。
文=Júlia Dias Carneiro/訳=荒井ハンナ