若い世代の目を引くため?衆院選で争点に浮上した奨学金の現状を識者が語る
給付型奨学金はほとんどの政党が賛成するも財源に課題
──貸与型とは別に、給付型の奨学金については、自民のほか、公明、希望、共産、社民など様々な政党が拡充を掲げている 今年の4月から給付型奨学金については、一部スタートしている。今は非課税世帯が対象だが、来年度以降本格的に実施されても、推定で6万人ぐらいの対象がいるのに、2万人しか出せていない。それを6万人に拡大したり、世帯年収の要件を緩和したり、月額2~4万円という金額を増やしたり、という仕事が残っているし、そこは各党反対していない。お金さえあればできる。 ──6万人に対してなぜ最初から全員にあげられなかったか これは完全に財源が理由だ ──日本ではこれまで奨学金を与えるときに、支援が必要ということのほかに、成績も重要になっている気がする。非課税世帯全員に給付型奨学金をあげるとなると、優秀じゃない子供は外すべきという議論も起こりそうだが ありえる話だ。日本はずっと両基準だった。今までの貸与型は返してもらうことが前提だったし、無利子の貸与奨学金は非課税世帯の人は学力基準が外れたが、返してもらうので、抵抗はなかったのだろう。ただ、渡しきりであげてしまうということになると、学力基準を外すことには反対という声が大きくなることもありえるだろう。
大学進学を悩む若者もいるが「経済的なことであきらめる必要はない」
──そもそも大学にそこまでみんなが行く必要はあるのか、という議論もある。中卒でも生計を立てて、しっかり生活している人もいる。なぜそこまでして奨学金制度を充実させないといけないのか どこまでの教育が必要か、というのは時代によって変わってくる。高校だって、終戦直後は今の大学より少ない。その頃は盛んに全員が高校にいく必要がないといわれた。だけど今は95%くらいが行っている。大学進学率は5割以上で、専門学校への進学が2割強あるので、それあわせると7割以上が進学する。高卒で就職する人が今はマイノリティ。学力も意欲もあるという人が進学できないというのがまず問題だ。そういう人をなんとか救い上げたいというのが奨学金の話がクローズアップされることになった要因だと思う。 ──大学に行くのは投資なので、大学に行っていない人の負担の公平性も指摘される 不公平が生じているという意見もあるが、大卒のほうが所得税多く払っているので釣り合いが取れているということもある。大卒人材が、本人だけでなく社会に対して良い影響があるという研究結果もある。例えば、アメリカでは、チームで仕事したときに高卒だけでなく、大卒がいると全体の生産性が上がるという研究がある。そういうことを考えると、不公平だという問題はあまり起きないのではないか。 ──進学に悩む学生は、大学に行くのはぜいたくだと思わなくていいか 若い人には2つのことを考えてほしい。まず、経済的に無理だという状況に対しては色々な方法がある。特に貸与奨学金だけじゃなく、今は大学独自の給付型奨学金や授業料減免、民間の給付型奨学金も増えており、色々な手段がある。経済的な条件だけで進学をあきらめるならもったいない。 しかし、今のような状況で特に借りすぎてしまって、却って無理な学生生活をおくると、後で歯車が狂ったときに大変なことになる。大学の中退調査というのもやっているが、奨学金を借りたくないということで、アルバイトだけで生活している人の実態はすごく大変だ。アルバイトが多すぎて体調を崩すことも多い。一番悲惨なのは中退してしまうこと。お金を返さないといけないのに、日本では中退をあまり評価してくれないので、高卒と同じ扱いになってしまう。 そのあたりのことを良く考えて無理がないというのを、もう片方に考えていただきたい。 ──2点を考えるために必要なことは 今、奨学金に関する色々な情報が飛び交っているので、正しい情報と正しくない情報を見分ける力を持たないといけない。高校や大学の先生も、事情をあまり知らない人もいる。著名な経済評論家が間違った情報を発信していることもある。できるだけ幅広く情報をとって、日本学生支援機構だけではなく、希望している大学や専門学校でも奨学金出したりしているのでそういう情報も見てほしい。 (取材・文/高山千香)