プッシュさせるか、2番手キープか……トヨタ内でも意見が分かれたル・マン24時間最終盤。小林可夢偉代表が振り返る「壮絶でした」
6月21日、スーパーフォーミュラ第3戦が行なわれるスポーツランドSUGOで、ル・マン24時間レースを戦い終えたばかりの小林可夢偉による記者会見が実施された。TOYOTA GAZOO RacingのWEC(世界耐久選手権)チームの代表で7号車のドライバーでもある小林が、レースを振り返った。 【一覧表】あなたは全員言える? 2024年ル・マン24時間レースに参戦する元F1ドライバー18人を一挙紹介 多くのメーカーの参画により、最高峰ハイパーカークラスに20台以上がエントリーするなど、かつてない盛り上がりを見せた今年のル・マン。トヨタ勢は予選で後方に沈み、8号車が11番手、7号車がクラス最後尾の23番手からスタートすることになったが、2台は力強いレースを見せて最終的には共に総合優勝争いに絡んだ。 結果的には、8号車はフェラーリ51号車に接触されたことが響いて5位。7号車はパンクやセンサートラブルに見舞われたが、フェラーリ50号車と14秒差の2位フィニッシュとなった。 レース終盤は雨絡みで難しいコンディションとなったが、7号車の最終スティントを担当したのはマイク・コンウェイの代役として出場したホセ・マリア・ロペスだった。昨年までトヨタのハイパーカーに乗っていたこともあり経験値は申し分なかったが、ダンロップシケインでスピンしてタイムをロス。追い上げはさらに難しいものとなってしまった。 最終的にロペスが担当することになった最終スティントだが、小林は本来は自分が担当する予定だったと明かす。しかしコースに濡れている場所と乾いている場所が混在する難しい路面コンディションだったこともあり、既に走行を重ねて現状を把握しているロペスを続投させることに決めたという。 また、レース残り15分ごろというタイミングでは、ロペスに対してリスクを冒さず2番手をキープして欲しいという指示が飛んだ。会見の中でこの一幕について尋ねられた小林は、ロペスにプッシュさせるかポジションキープさせるかについては、チーム内でも意見が分かれたと語った。 「これはねえ……壮絶でした」と小林は言う。 「エンジニアの中でも(意見が)二手に分かれてしまって、僕はどちらかというと仲介役でした。ただこういう時のドライバーは常にできることをやっているんですね。『もっと速く走れ』と言われたドライバーが1周1秒速く走れたら、そのドライバーはプロではないと思います。でも、1周1秒~2秒くらいのペースアップをしないと勝てない展開でもありました」 「僕は無理に『プッシュしろ』と言うのではなく、気持ちよく走ってくれたらいいんじゃないか……と思ったのが本音です」 また、最終スティントを小林が担当していたらどうなっていたと思うかという質問には、こう答えた。 「僕が行っていたら……というのは分からない話です」 「ただ、ああいう時に思いっきり行けちゃうホセのメンタルは僕以上じゃないかと思っています。ホセってル・マンでめちゃくちゃ速いんですよ。去年もそうですが、ドライ路面でもアベレージは毎年ホセが1番速かったです」 「僕もああいうコンディションは、まあまあ得意なのでチャンスはあったかもしれないですが、僕が乗ったら路面状況を理解するのに5~6周は時間がかかったと思います。その時間もリスクだと思ったので、ああいう判断をしました。それにWECのチームというのは本来、誰が乗っても勝てるチームづくりをしないといけないですからね」 今季のWECはまだレースが残されているが、それと同時に2025年のル・マンに向けた取り組みもスタートしていく。小林は「ここで言うとどうなるか分からないので、何をやっているかは言えませんが、来年は自信あります」とニヤリと笑う。 「僕らの課題、もっと速くなる方法は個人的には分かっています。良いクルマを作るのって、僕らが良いコメントを言うだけではできません。それをエンジニアさんが理解したりと、良好なコミュニケーションを取る必要があります」 「簡単に言うと、今は人を育てることをやっています。それはこれまでもやってきましたが、もっと細かいレベルで僕らの乗りたい車を作ることに取り組んでいます。僕らの乗っている感覚と、エンジニアさんが集めたデータ、それをいかに融合させるかを課題としています」 「こういう活動をして人を育てることができれば、WECに限らずトヨタのクルマの技術としても活かせる部分がたくさんあると思うので、そういうところをしっかりやりたいですね」
戎井健一郎