ただの我がままなのに、本気でつきあってくれる人がいることの幸せ。エル・デスペラードがクリス・ブルックスに感じた「時間は有限」というエネルギー【週刊プロレス】
DDTに礼を尽くした? いや、フェロモンズに救われただけです
――たとえ我がままだとしても、一緒に共有するファンがあれほどいる時点で我がままではなくなるんだと思います。これもクリスが言っていたんですが、デスペラード選手が新日本の中でちゃんと実績を築いて信用を得なかったら実現していないと。確かに、やるべきことをちゃんとやってきて、それはおそらくずっと前からデスペラード選手の中で実現させたいという思いがあって、そのための土台を作ってきたと我々にも映るんです。 デスペラード 外とやるために何かを頑張るっていうわけじゃないですけど、僕はどこの誰とやっても、お客さんが喜ぶ試合をできるプロレスラーであり、一個のプロデューサーとしてのレベルをとにかく上げたいっていうのが根底にありました。それは先ほどの話に戻っちゃうんですけど、いつでもできるわけじゃないっていうのがあって、いまだに大きな棘として刺さっているのが(獣神サンダー)ライガーさんの引退試合に間に合わなかったことなんです。ライガーさんが引退するまでに僕ができあがって今の状態にあれば(髙橋)ヒロムと組んでライガーさんとやれたはずだった。でもそこに間に合わなかったことで、会社内での発言力を急いで持たないとやりたい人とやれないし、そのやりたい人がやめちゃうかもしれないっていうのがあるから自分を高めたい、レスラーとしての質を高めたいという目的になる。新日本内の人ともすごい試合を自分がしなきゃいけない、自分が手の届く範囲のことはすべて築き上げなければっていう感覚はずっとあります。 ――それを実際の形にするのは、並大抵のことではないです。 デスペラード それはもう慣れました。若手の頃、鈴木(みのる)さんに寝技のスパーリングで毎日悲鳴をあげさせられて、それでもバカにしないで相手してくれた。それを見て、あれをやったって別にプロレスうまくならねえしって言ってくる人が山ほどいたんですよ。悲鳴をあげる僕を外国人選手が指差して笑っていましたからね。それを7年も8年もやっていれば、地味な練習を続けることぐらいなんでもないですから。 ――DESPE-invitacionalでは見る形と実際に自分がやる形の両方でDDTを全身で浴びまくったわけですが、それを経てのクリス戦になります。 デスペラード クリスに関しては、そういう意味での不安はないですよね。彼のスタイルはトリッキーではあるけど、あくまでオーソドックスであり基本、ベーシックなんで。懐の深さやタイミングを僕が見誤らなければ素晴らしいものができる自信はあります。まああの時は4WAYのハードコアルールに出て、ステープラー(巨大ホチキス)をちゅうちょなくやっていたんで、顔はベビーフェイスなのにやることはゴリゴリだよなって思っていました。あと、メインは(男色)ディーノさんが“フェロモンズごっこ”という単語を使ってくださって助かりましたけど、やっぱりあの世界では太刀打ちできないってわかりました。僕が試合中に飲み込まれて動けなくなる瞬間がいくつもあったんですよ。もう、ついていくのに一杯いっぱいで、でも終わった瞬間はもう最高に楽しくて。ケツを出したあたりで自分もスイッチ入って大丈夫だったんですけど、そこに至るまでがすごかったですからね。なんでしょう、いくら泳いでも離岸流に飲まれているような…先に進まないんですよ。 ――今、DDTを全身に浴びてどうでしたかと聞いたのは、クリスが単純明快に両国ではDDTを味わってもらうという意味のことを言っているからです。 デスペラード 去年の両国を経験しているわけですけど、それだけで済むわけがないでしょうから、何が出てくるかは楽しみです。これで対戦相手が平田一喜さんだったらやる前から無理ですけどね、あの踊りをやれるのは、高橋ヒロムだけです。 ――そういうものですか。 デスペラード 平田さんはすごいですよ。ああいう強い弱い、すごいすごくないだけじゃないところで自分を表現できる人を相手にする時が一番怖いんです。それと比べたら、クリスが容赦ないのであれば僕もやり返せると思っているので楽しみです。 ――ディーノ選手に招待状を渡すべくDDTの後楽園ホール大会に来た時、すごく歓迎されたじゃないですか。6月10日も男色ディーノをメインにラインナップしたのはDDTに対するデスペラード選手なりの礼を尽くした形だと思ったんです。そういったところから、DDTのファンは感じ取っているものがあると思っていて。 デスペラード いや、僕が単純にフェロモンズによって救われたという事実ですよ。辛いことがあったらフェロモンズを見ようってツイートしたけど、本当に見ていましたから。プロレスを見る元気さえない時ってあるんですよ。僕はアニメも好きだし、声優さんのライブパフォーマンスも好きだしなんでもエンターテインメントが好きなんですけど、そういうものってストーリーが入ってきて理解して、笑えるとか泣けるとかがいいんじゃないですか。でも、そういう感情を出すエネルギーさえがない時に、フェロモンズが単に絵としてヒドいことを耐性のない人(例:今林久弥GM)に平気でやるわけじゃないですか。それで笑えたんです。絵として見たらただ下ネタで騒いでいる人たちに映るかもしれないけど、根底にあるのはディーノさんの人間力で、そこに乗って一緒にあのテンションでいられる飯野(雄貴)さんであり今成(夢人)さんであって。アニメとかほかにいくつかの選択肢がある中で、残りカスの状態の時に、セクシーピーラーしかりセクシーシーソーしかりを見て…あのへんはヤバかったですよね。 ――スラスラ出てきますね。 デスペラード セクシーシーソーなんて、こんな発明があるのか!ぐらいに思いました。 ――ベスト・オブ・ザ・スーパージュニア覇者がフェロモンズによって救われていたと。文字にするとなかなかの字ヅラです。 デスペラード こういうことを言うと僕は戦犯のように扱われるわけですけど。 ――でも、だからこそそれも一つの価値観として武器になります。 デスペラード そう、価値観ですよ。だから支持してくださることはありがたいし嬉しいですけど、嫌われることは正直、どうでもよくて。だってこれが自分なんだから。そんなことよりも腕の取り合いだけで5分やってみろなんて言われても、やりゃあできるんだよ、誰だってそういう練習を飽きるほどやってんだよ。でもやるかやらないかはこっちが決めるんだよっていうことなんで。 ――それでは最後に、クリス・ブルックスに対してだからこそ言える言葉を使ったメッセージを聞かせてください。 デスペラード クリス、今回は(自分の主宰)興行に来てくれて、血まで流した上で俺をリングの上に呼んでくれてありがとう。楽しかったし、嬉しかった。俺が昔(IWGPジュニアヘビー級の)ベルトを持っていろんな選手の名前を出した時…あなただけだよ、おまえが獲りに来いって言ってくれたのは。今回はタッグのベルトもシングルのベルトも何も懸かっていないけど、俺はおまえの玉を獲りにいくから。
週刊プロレス編集部