J2優勝“翌シーズン”にJ1優勝争いのFC町田ゼルビア。黒田監督が「たった2年でトップチームに押し上げた」2つのこと
◆「負けない」思考を重ねて「勝ち」を積み上げた
水野:監督に就任された当時、チームは良い状態とは言えなかったと思います。立て直しをどのようにはかっていかれたのでしょうか。 黒田:そもそもチーム組織とは「何のために存在しているのか」をまず再確認しました。当然ですが、チームは目的や目標達成のために存在しています。ゼルビアではJ1昇格ではなく、「J2で優勝するためにチームは存在する」という目的意識をしっかりインプットさせました。 私もこれまで何度も経験してきましたが、やはり「優勝するチーム」はトレーニングを含めた日常生活の中で、良い習慣を確立し、全てにおいて高い水準を維持し、戦うメンタリティーを持ち合わせています。 水野:チーム全体が「絶対に優勝するんだ」というマインドを持ち合わせることが重要なのですね。 黒田:そうです。しかしいくらマインドを持っていたとしても、チーム組織の状態は日々変化します。メンタルコンディションも選手によって大きく異なります。すると当初決めた目標から逸脱したような行動や思考は常に起こってくるのです。 そういう悪しき思考を持ち込ませないこと、マイナス要因は徹底的に排除することをチーム全体に厳しく意識させました。 水野:悪しき思考は広がりやすいですしね。「ネガティブ思考を許さない」という空気をつくっていかれたのですね。 黒田:はい。日々変化する状況に対して、必要ならマインドの修正も行います。選手たちから目を離さずに、しっかりとモチベーションをコントロールすることに注力しました。大人の集団とはいえ、なかなか矢印が自分に向けられないのが一般的なプロ組織の現状なのかもしれません。 水野:そうだったのですね。実際、2023年ゼルビアに入られて、練習風景を初めて見た時の印象はズバリいかがでしたか。 黒田:率直なところ「これは根本的に取り組みを見直さなくては」と感じました。過去の試合内容を映像で確認したとき、プロなら普通に防げるであろうミスがいくつも散見されたからです。 例えば2022年シーズンでは、年間失点が50点もありました。得点は51点取れているので上回っていますが、それでも失点があまりにも多い。同年J2首位だったアルビレックス新潟の失点は35点です。まずは失点を減らす。それには悪しき習慣や思考を絶つ。 やるべきことはシンプルで、就任した日から思考の改善、意識改革、習慣の見直しについて細かく取り組んでいきました。 水野:前述の「負けない」という考え方に加え「失点を減らす」ことにも注目されたのですね。 黒田:そうです。サッカーというスポーツは、点を取らないと勝てないのですが、一方で得点しようと前掛かりになると、必ずカウンターという裏があります。後ろに隙ができたり、そこを一気に狙われたりと、最も失点につながりやすいのです。攻守は表裏一体、そのバランスが重要なのです。 そこでまずは、失点の少ない試合をする。そうすると、引き分けで終わる「負けない」思考が身に付きます。そうすれば、仮に負けそうな試合があっても、負けを最小限に抑え込むことができます。 これに答えはありませんので、それぞれの戦力や力関係、試合状況をよく考察し志向していくことが大切だと思います。 水野:勝ったり負けたりを繰り返すような考え方よりも、負けないことに注力することで勝てるゲームを増やしていかれたのですね。 黒田:おっしゃる通りです。「勝つ」ではなく「負けない」というのは、一般的な組織でも大事な考え方だと思います。何より、「負けなかった」というマインドは、「自分たちがやってきたことが間違いではなかった」という裏付けになり、自信になります。「この方法が最適なんだ」と選手全員が思えれば、おのずと勝ちは見えてくるのです。