米大統領選まで2週間、“ハリス崖っぷち”で「トランプトレード」が再加速【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】
2.勢い増すトランプトレード
■大統領選挙直前のこの時期に、わかりやすい形でトランプ候補の優勢が伝えられたことで、市場では「トランプ再選」を織り込む動きが加速しているように見受けられます。 ■トランプ候補が設立したトランプ・メディア・アンド・テクノロジー社(ティッカー:DJT、トランプ候補のフルネームであるDonald John Trumpの頭文字)の株価は急速に反発しています(図表2-1)。また、株式市場では、トランプ政権下で規制緩和が期待される地銀株やエネルギー関連株などを、「共和党バスケット」と称して物色する動きが見られます。そして、トランプ候補の名を冠した暗号資産(ミーム・コイン)の存在や、トランプ候補とその親族が仮想通貨ビジネスを営んでいることもあって、ビットコインを始めとした暗号通貨も上昇傾向となっています(図表2-2)。
3.トランプトレードの本命
■トランプ候補の再選を見越した「トランプトレード」が活況を呈する一方、同候補の政策に気がかりな点がないわけではありません。中でも税制や通商政策は、中長期的に世界経済やマーケットに大きな影響を与える可能性があります。 ■超党派の米シンクタンク「責任ある連邦予算委員会」は、トランプ候補の選挙公約が実施に移されると、2026~35年度の10年間に約7.5兆ドル(約1,100兆円)の財政赤字要因になる、と試算しています。トランプ候補が当選を果たし、もしも公約通りの関税の引き上げや保護主義的な通商政策が取られた場合、世界経済には下押し圧力がかかる可能性があります。こうした状況もあってか、国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は10月17日の講演で、「世界経済には低成長と高債務という容認できない組み合わせ、困難な未来が待ち受けている」と警告を発しています。 〈トランプトレードは「スタグフレーショントレード」?〉 ■経済学の基本的な考え方から言うと、国際間の交易が活発化すると「お互いが足らざる所を補い合う」ことで、(1)規模の拡大で生産者の生産性が上がり、(2)消費者は低コストで多様な選択肢を手に入れ、(3)世界全体では資源配分がより望ましい形となり、(4)世界経済の(潜在)成長率が高まることとなります。一方、トランプ候補の公約が実行に移されると、(1)米国の財政赤字は拡大し、(2)経済は下押し圧力を受け、(3)同じ成長率であればインフレ圧力が高まることとなります。 ■2016年の大統領選後に株価が大きく上昇した「トランプラリー」の記憶もあって、市場ではトランプ候補が再選した場合のマーケットを楽観視する向きが少なくありません。しかし、トランプ再選の結果としてIMFが指摘するような負の側面が目立つようになると、「インフレ」、「財政悪化」、「高金利」、「低成長」といった、リスク資産にとってはなんとも居心地の悪い市場環境となりかねません。そして、市場では「米国債の売り」が最も力強く、明確なトレンドとして認識される可能性があります。足元では、米景気の堅調さを背景に米長期金利は反転傾向にありますが、米景気が再び減速する局面でも金利の高止まりや上昇が続くようなら、トランプトレードとしての「米国債売り」が市場の主役に踊り出すこととなるかもしれません。 〈まとめに〉 ハリス候補の失速により、トランプトレードが加速しているようです。2016年の記憶もあって、短期的には特定の銘柄、業種、資産クラスなどが「トランプ再選」の追い風を受けつつ、市場全体としては悪くないムードでイベント通過となりそうです。とはいえ、トランプ候補の掲げる保護主義的な通商政策や、拡張的な財政政策が現実のものとなると、米長期金利には相当な上昇圧力がかかる可能性があります。トランプトレードの本命はこうした「米金利の上昇」かもしれません。 (2024年10月23日) ※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。 ※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『米大統領選まで2週間、“ハリス崖っぷち”で「トランプトレード」が再加速【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフグローバルストラテジスト】』を参照)。 白木 久史 三井住友DSアセットマネジメント株式会社 チーフグローバルストラテジスト
白木 久史,三井住友DSアセットマネジメント株式会社