安価に魚が買える背景にある人権を無視した漁業の存在を知ってほしい/滝本麻耶氏(WWFジャパン パブリック・アウトリーチオフィサー)
第16回セーブアースでは違法な漁業によって水産物が捕獲・生産されることを意味するIUU漁業(違法・無報告・無規制漁業)の問題をあらためて取り上げ、日本人の食生活には欠かせない水産物の中にIUU漁業由来のものが含まれている現状と、それによって途上国を中心に漁業者の人権が脅かされている問題などを取り上げた。 現在、世界の漁業資源の3割が過剰漁獲されているとされるが、その大きな要因となっているのがこのIUU漁業だとされる。IUU漁業による漁獲量は世界全体の漁獲量の13~31%を占め、金額に換算すると約1兆1,000億円から2兆6,000億円にものぼるとされている。IUU漁業は人権侵害を伴う場合も多く、国際的にも大きな問題になっている。 日本でも、輸入水産物の24~36%が「違法・無報告」に漁獲されたものだとされ、例えば中国から輸入されるイカ・コウイカに限ると35~55%にものぼる。特に日本で流通している水産物の中でIUU漁業のリスクが高いのは、サケ・マス類やヒラメ・カレイ類、ウナギ類などで、中でも流通経路に不透明な部分が多いウナギは稚魚のシラスウナギが暴力団の資金源になっていることが指摘されるなど、深刻な問題を抱えている。 WWFジャパンの滝本麻耶氏はIUU漁業の問題点として、漁獲量の正確な把握ができなくなるため、水産資源の適切な管理が難しくなるほか、安価な商品が市場に出回るため正規の水産物が価格競争で負けてしまうことなどを挙げる。IUU漁業が行われている国では、価格を安く抑えるために無償で労働者を働かせるなど、奴隷のような労働状況が横行していることが指摘されている。 滝本氏はIUU漁業を撲滅するためには、監視員を漁船に乗船させたり、電子的にモニタリングを行うなど、沿岸国や地域漁業管理機関による管理の強化が必要だと語る。また、輸入国の方でもIUU漁業由来の水産物を流通させない措置が必要になる。例えばEUでは2010年から全魚種を対象に、アメリカでは2018年から13種を対象にした輸入規制、漁獲証明制度が導入されている。日本でも2022年から水産物流通適正化法が施行されているが、この法律は対象魚種をナマコ、アワビ、シラスウナギの国内3種とサンマ、サバ、イカ、マイワシの輸入水産物4種に限定しており、未だ十分とは言えない。 消費者としても、日々の食卓に並ぶ魚の中にIUU漁業由来の水産物が含まれている可能性があることを知り、IUU漁業が行われていないこと証明するMSC認証やASC認証のエコラベル付きの水産物を購入するなど、IUU漁業をなくしていくための行動を取ることが必要だという滝本氏と、環境ジャーナリストの井田徹治が議論した。 【プロフィール】 滝本 麻耶(たきもと まや) WWFジャパン自然保護室海洋水産グループ パブリック・アウトリーチオフィサー 1981年千葉県生まれ。2004年慶應義塾大学法学部卒業。17年、アルベルト・ルートヴィヒ大学フライブルク大学院修士課程修了。編集者、環境コンサルタントを経て17年より現職。 井田 徹治(いだ てつじ) 共同通信編集委員兼論説委員 環境・開発・エネルギー問題担当 1959年東京都生まれ。83年東京大学文学部卒業。同年共同通信社入社。科学部記者、ワシントン特派員などを経て2010年より現職。著書に『ウナギ』、『生物多様性とは何か』『データで検証 地球の資源』など。 【ビデオニュース・ドットコムについて】 ビデオニュース・ドットコムは真に公共的な報道のためには広告に依存しない経営基盤が不可欠との考えから、会員の皆様よりいただく視聴料(月額500円+消費税)によって運営されているニュース専門インターネット放送局です。 (本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)