7.12大阪で再戦決定。「これが最後になるか」。2つのネガティブ要素を抱えた村田諒太の勝算は?
そしてもうひとつのネガティブ要素が9か月のブランクだ。本来ならば、ノンタイトルの再起戦を挟んでおきたかっただろうが、村田は「これも運命。ミドル級で、いきなり世界戦のチャンスはなかなかない。本田会長をはじめ皆さんに感謝したいし、そのチャンスを手繰り寄せたい」と受け入れた。 「怪我したブランクがあったし、ロンドン五輪の時も2011年の世界選手権の後から試合をしていない。9か月は、あまり関係ない。アマチュア時代は、やったりやめたりしていた。その中途半端な経験が生きてくれればという期待論がある」 ただブランクを埋めるためスパーリングパートナーを通常より早く来日させ、実戦練習のスタートを早めるという。 村田は、このビッグマッチに重大な覚悟を持って挑む。 「負けるようならプロの価値はない。チャンスを生かせないなら、そこまでの人間。まあ勝ったところでたいした人間じゃないけど」 ハッキリと断言はしなかったが負ければ引退である。エンダム戦のような、よほどの論議を生むような内容でない限り、ベルト奪取に失敗すれば、もう次はない。 「だから緊張感はある。チャンプになってちやほやされるようになって、人間が日常をすごすとき、永遠を感じるわけで、明日人生が終わるなんて考えずに生きるわけ。これが最後と思うと1日、1日を大事に思う。だから勝ちたいし倒したい」 勝てば再びミドル級のトップ戦線に村田が殴りこむ。東京ドーム決戦が幻に消えた元統一王者、ゲンナジー・ゴロフキン、そのゴロフキンを再戦で破った統一王者のサウル“カネロ”アルバレスらの対戦候補としてリストアップされることになる。 さらに上へ。のし上るための重要な一戦であるという位置付けは王者のブラントも同じ。彼もまた「重要な試合になる。世界で戦うポジションに上りつめるためには、ただ勝つだけでなくファンを楽しませる、エキサイティングな試合をしなければならない」と、この試合を踏み台にする気概で日本へやってくる。 プロボクシングは、お互いの人生の幸福を奪い合う残酷なスポーツである。だからこそ……そこに奇跡が生まれる。貯金通帳を死ぬほど分厚くした村田は、もう今さら奪われるような人生はないのかもしれない。しかし、彼は、ゼニカネよりもっと尊いものを、その試合に懸ける。7.12。大阪へ。奇跡を見にいこう。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)