『侍タイムスリッパー』クライマックスの“間”は黒澤明オマージュ 『マトリックス』のギミックも応用【ネタバレ解説】
「『マトリックス』の1作目は、香港映画がずっとできなかった『カンフーアクションにリアリティーを持たせること』を達成しています。これまでは、正義の味方が悪役とカンフーを披露した時点でマンガチックになってしまうことが多々あり、リアリティーの壁を超えられなかったんです。しかし、『マトリックス』では仮想現実(=マトリックス)で起こってることは現実であり、観客は仮想現実を受け入れるため、劇中で起きていることはあたかも現実であると錯覚するわけです」
「つまり『侍タイムスリッパー』の劇中劇で起こっている現実は、 フィルターを1回通して、観客も現実として受け取る効果を発揮したわけです。そうすると、最後の立ち回りは(実際の撮影では)竹光を使っているわけですが、劇中劇において真剣を使っていると提示できれば、お客さんは竹光=真剣と捉えてくれるのです。私はこれを『マトリックス』のギミックと勝手に言っております(笑)」 安田監督によると、無音状態の演出はさまざまなパターンを検討していたという。「呼吸音や心拍の音だけ残したり、『椿三十郎』は現場の音も入っていたのですが、実際にやってみると、無音が最も心拍数が上がる感じがしたんです。そこは、単なるオマージュだけでなく自分なりのアレンジを加えて作っています」
『マトリックス』のギミックを応用しながら、竹光を真剣に見せるために試行錯誤を繰り返した安田監督。「これは怖い! と思えたのは、 鍔(つば)迫り合いではなく、刀の歯が当たったまま押し切ろうとする動きです。ある意味リアルだと思ったんです」。立ち回りのシーンは3日を費やしたそうで、「本当に難しかったです」と振り返っていた。(取材・文:編集部・倉本拓弥)