【森永卓郎の本音】コスパを追求する前にモラル徹底を
闇バイトに応募した若者が住宅を襲い、現金を奪取する暴力的な強盗事件が全国各地で相次いでいる。実行役の多くが指令役に個人情報を握られ、強盗を断ったら、自分や家族に危害が及ぶことを恐れて、やらざるを得なかったという供述をしている。そうした事態を受けて、ある評論家が「高額報酬を提示されても、結局は逮捕されてすべてを失うのだから、トータルでみれば、コスパが悪い仕事なんですよ」という話をしていた。その考えは、大きな間違いだと思う。 実行役は、家族や自分に被害が及ぶことを恐れて犯行に及んだとしているが、家族や自分を守るために被害者を殺害しているのだから、結局は、自分のことしか考えていないということだ。コスパという言葉の背景には、そうした自己中心的な発想がある。コスパを追求するのは自由だが、その前提として、人を殺(あや)めてはいけない、人から奪ってはいけないという倫理が優先されるべきなのだ。 そもそも、お金は、自ら増殖しない。お金が増えるのは、働いたときと、他人から奪ったときに限られる。略奪は許されないから、お金を稼ぐ手段は、働くこと以外にあり得ないのだ。 私は、こんなおかしな世の中になった一つの原因は、政府が「貯蓄から投資」へと働かずにお金を増やすことを推奨したことにもあると思う。政府は金融教育を充実させると言って、投資の技術普及に邁進(まいしん)しているが、それ以前に金融教育がやるべき課題は、浮利を追わず、他人を思いやり、真面目に働き続けるというモラルを徹底することだ。 なぜ我々が社会を作ったのかといえば、お互い助け合うためだ。もし、すべての人がコスパだけを追求するのであれば、そもそも社会を作る必要など、どこにもないのだ。(経済アナリスト)
報知新聞社