トランプ氏支持の源泉は不法移民問題、党員集会で見た強烈な不満 「米国の血を汚す」ヒトラーまがいの言葉をぶちまけ…【ワシントン報告(13)米大統領選始まる】
米大統領選の共和党候補者選びはトランプ前大統領がアイオワ、ニューハンプシャー両州をはじめ序盤戦を連勝し、党候補の指名獲得に大きく踏み出した。トランプ氏の支持者を取材して実感するのは不法移民問題に対する強烈な不満だ。岩盤支持層の源泉になっている。とはいえ党内は一枚岩ではなく、深い断絶が見て取れる。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 【写真】トランプ氏「私欲を優先」 元側近、当選なら日本含む同盟国軽視
▽300万人超す アイオワの州都デモインから車で20分の所にあるノーウオークの小学校。大統領選の幕開けとなる党員集会が州内各地で開かれた1月15日は、氷点下30度近い異例の寒波に見舞われた。開始時間の午後7時前から、約250人の党員が凍った雪に足を取られながら集まった。 ITマネジャーのダレル・グレイフズさん(62)に誰を支持するか尋ねると「トランプ」と即答した。「理由は不法移民への対応。バイデン(大統領)は何もやっていない」と肩をすくめた。同じ意見は別の参加者からも聞かれた。 それも分かる。米税関・国境警備局によれば不法移民は2023会計年度(22年10月~23年9月)で300万人を超えた。トランプ政権からバイデン政権への移行期に当たる2021会計年度が195万人だったことを考えれば、増え方は著しい。ほとんどが地続きのメキシコとの国境を越えてやってくる。中南米系が多い。大量の不法移民が日本に押し寄せる状況を想像すれば、米国人が抱く不安は理解できる。
▽心に響く「国境の壁」 トランプ氏が支持される背景の一つに歴代政権から軽視されたと感じる白人労働者の反発がある。大統領選の具体的な争点に落とせば不法移民問題との関わりが深い。仕事も、多数派としての白人の優位性も脅かす存在だからだ。「国境の壁」は心に響く政策だった。バイデン政権に代わって、不法移民に対する扱いは緩和された。白人だけでなく、単純労働に従事する割合が大きい中南米系や黒人の間でもトランプ氏支持に傾く人が増えている。 ニューハンプシャー州の集会で、トランプ氏は不法移民について「正確な数は1500万とか1600万に上るだろう。米国の血を汚す人たちだ。世界中のあらゆる刑務所や精神医療施設からやってくる」と持論をまくし立てた。血を汚すという表現はナチス・ドイツのヒトラーが使った不適切な言葉との批判もメディアから出たが、当の本人はもちろん意に介していない。 不法移民問題は政争の具になっている。下院で多数派を握る共和党は国境警備の強化を法制化しない限り、ロシアに侵攻されたウクライナへの軍事支援を認めないとの立場をとる。バイデン大統領は「法律が通って自分に国境を閉じる権限を与えれば、即日署名する」と語り、議会側に早期の妥結を促したが、共和党のジョンソン下院議長は「法律が通らないと何もできないかのようにうそをついている」と反論し、折り合えていない。下院は、国境警備を担当するマヨルカス国土安全保障長官が職務を十分果たしていないとして、弾劾訴追する決議案を可決した。