「たねやも終わりだ」バカボンと呼ばれた4代目 なぜ「ラ コリーナ」やバームクーヘンを成功に導けたのか ~たねやグループの事業承継 後編
◆「ラ コリーナ」誕生秘話、「私は死にません!」
社長に就任した山本氏は、数々のヒット商品を世に送り出します。中でも2015年、和菓子の「たねや」と洋菓子の「クラブハリエ」の全商品を楽しめる旗艦店「ラ コリーナ近江八幡」をオープンさせます。 もともと、徳次氏が「お菓子の館」というテーマパークの構想を持っていました。 しかし、全国各地に乱立したテーマパークの失敗例を見ていた山本氏は、近江八幡の原風景を取り戻すことの方が必要だと考えていました。 国内外で意見を聞いて回る中、イタリアの建築家兼デザイナー、ミケーレ・デ・ルッキ氏と出会い「ラッコリーナ」という言葉を知ります。イタリア語で「丘」という意味の言葉は、山本氏の目指したいイメージにぴったりでした。 「お菓子の館」建設は途中まで進んでいました。それでも山本氏は、違約金を支払ってまで計画を変更します。銀行も猛反対しますが、山本氏は「父親は私より先に死にます。父が言ったことを続けるのはおかしい。私は死にません」と伝え、銀行を説得しました。 「ラ コリーナ近江八幡」は、2022年には入場者321万人を集め、2位の多賀大社の160万人を大きく引き離し、7年連続で滋賀県ナンバー1の観光スポットとなっています。
◆滋賀をオーガニックの街に
たねやグループの「根幹」を示すような企業があります。 グループの構成企業は、和菓子の「株式会社たねや」、洋菓子の「株式会社クラブハリエ」に加え、農業の会社「株式会社キャンディーファーム」があります。山本氏は「地球温暖化などが進む中で、私たちの菓子のために作ってもらっているものを、自分たちでしっかり育てるということが大事だと思いました」。 キャンディーファームでは、東京農業大学や立命館大学などと協力し、土づくりから始めています。滋賀県をオーガニックの町にすることを目指し、まずはオーガニックブランド作りの拠点として展開させていく計画です。 山本氏は「現在は100年、200年後に続く未来の点にすぎません。ほんの一瞬だけ私はたねやをお預かりしている。返せるときは今よりも綺麗な形で神様や地球にお返しする。そういう環境づくりをしなくてはいけないと思っています」。 その思いを具現化するのが、キャンディーファームかもしれません。 「地球温暖化をはじめ、さまざまな社会課題がたくさん出てくると思います。この先の当主が、あの時1本の木を植えてくれたことで今があるんだとか、あの水を綺麗にしてくれたから美味しい水が飲めるとか。オーガニックの野菜が食べられるのは4代目が初めてくれたからだとか。そういう環境づくりをしていきたい」。 その言葉には、たねやの根幹である「天平道」「黄熟行」「商魂」がしっかりと根を張っていました。
■プロフィール
株式会社たねや 1872年(明治5年)、旧八幡町池田町の地にて創業。1984年、日本橋三越店、銀座三越店をオープン。2011年現CEO山本昌仁が四代目代表取締役社長に就任。2015年「ラ コリーナ近江八幡」をオープン。2015年より7年連続滋賀県、観光客数推計1位に輝く(2022年調べ)。2023年には過去最高売上を達成