何十万人の「避難勧告」どう受け止めたらいい?
2009年8月、兵庫県佐用町の大雨で屋外避難中の中学生らが濁流にのまれるなどして20人が犠牲となりました。これを受けて、国は災害時における避難のあり方の見直しに着手。片田教授らを交えて議論が重ねられ、東日本大震災をはさんで昨年、災害対策基本法が屋内待避などの考えを盛り込んで改正されました。避難勧告などのガイドラインも見直し案が発表され、今年度から運用が始まったところです。 見直し案には避難のあり方の他、避難勧告などの出し方について「空振りをおそれず、早めに出すこと」とも明記されています。これまでは災害の対象地域が絞りきれなかったり、避難所の開設準備が間に合わなかったりという理由で、勧告や指示を出し切れなかった自治体がありました。これに対して国が背中を押す格好になったのです。 片田教授は「空振りはいいというか、『見過ごしはだめ』ということ。これを受けて行政は勧告などを積極的に出す、出さざるを得ないという方針になりました。一方で住民の側は、その情報にすべてをゆだねるのではなく、その場の状況からどう行動するのがベストかを個人個人で判断することが求められます。日本の防災は、とかく役所頼みで、住民がいわば『過保護』になっていました。これからは1人1人が主体性、つまり『わがこと感』を持って情報を受け止めてほしいのです」と強調します。 ■名古屋「100万人勧告」の教訓 見直し議論の最中に起きた2011年9月の台風15号による豪雨では、名古屋市が氾濫の危険の迫った河川流域の住民100万人以上を対象に避難勧告を発令しました。2000年に10人の死者を出した東海豪雨の教訓も意識された判断で、結果的に河川の氾濫による死者は出ませんでしたが、市の人口の半数近くを対象にした避難勧告の意義が問われました。 当時の判断にかかわった関係者は「上流で堤防が切れたら、名古屋駅を含めて短時間でどれだけの範囲が浸水するのかを計算して、いわば自動的に出てきた数字。もう少し時間を区切って出すなどの方法はあったかもしれないが、正確な情報を1つでも多く出す方針として間違ってはいなかった」と振り返ります。 ただし、実際に避難所などに移動した市民は、4500人程度にとどまったとされています。これは前述のように「外に逃げるだけが避難ではない」ことと照らし合わせると単純に判断することはできませんが、内閣府がまとめた過去のケースでも、避難勧告を受けて実際に避難準備を開始した住民は1割に満たないという結果が出ています。