可愛い新ヒーロー!なぜ19歳友野一希は世界フィギュア枠死守に貢献できた?
コツコツと階段を一段一段、踏みしめるように力をつけてきた選手だ。大器晩成型と言っていい。 本拠地は関西。大阪の堺市出身で、一時、存続が危ぶまれていた大阪府立臨海スポーツセンターでジュニア時代を過ごした。町田樹らが練習場所にしていた。関西の重鎮、大西勝敬コーチの教え子である平池大人コーチの厳しい指導を受けて、現在は、浪速スポーツセンターを拠点としている。 ジュニア時代は、当初、3回転アクセルも3回転+3回転の連続ジャンプも跳べなかった。ジュニアGPシリーズの選考会でも落選が続きメダルとは縁遠かった。ようやく3回転アクセルが身についたのは5年目。3年前に強化指定にも選ばれ、ジュニアのGPシリーズに出場できるようになる。4回転サルコーも跳べるようになり、2016年のジュニアの世界選手権に山本草太(18、邦和スポーツランド)の代役で出場。その経験で自信をつけ、次のシーズンの全日本ジュニア選手権で初優勝した。 ジュニアで力を蓄えてシニアデビューしたのは今シーズン。昨年のNHK杯では、村上大介(27、陽進堂)の代役で初のGPシリーズ出場のチャンスをもらい7位に入っている。平昌五輪の代表選考会だった全日本では、最終滑走グループに残って4位。今回も、また羽生が欠場、本来なら代役は、無良崇人(27、HIROTAクラブ)だったが、引退を表明して辞退。友野に出番が回ってきた。 “持っている”スケータかもしれないが、元全日本2位の中庭健介氏は、こう評価した。 「友野選手は、宇野選手と並んで、練習量をきちんとしている選手だと思います。まさか、世界選手権で5位に入るとは思いませんでしたが、ゆっくりと右肩上がりに力をつけてきた選手です。しっかりとした練習量があるから、フリーの後半になってもスピードが衰えず、安定した演技の正確性を保てるのが特徴です。4回転は、まだサルコーの1種類だけですが、精度は上がっていますし、例えミスをしても、4回転以外のエレメンツでのミスがほとんどないのです。演技中に体が大きく見えるようになりました。宇野選手も、4回転ジャンプで3度転倒しながらも最後に連続ジャンプを3つも入れる構成に変えて高得点をキープしましたが、これが可能だったのは豊富な練習量があったからです。宇野選手と友野選手の共通項ですね。友野選手は、がんばれば、誰にでもチャンスがあるという夢を与えてくれました」 大会期間中には、競技日も含めて40分の公式練習時間が割り当てられている。本番のプログラムの音楽をフルに流して想定練習を行い、選手によって個人差はあるが、エレメンツの中から何かしらの要素を抜く選手が少なくない。特に競技日の午前中の公式練習では疲労なども考えジャンプの難易度を落としたり、途中のエレメンツを省略したりするが、友野は、どんな状況でも、SP、フリー共にひとつのエレメンツも省くことなく試合さながら真剣に滑りきる。今大会だけでなく、過去に何度も代役という形で出番が回ってきても、動じることなく競技に入れたのは、日ごろのこういう準備のおかげだったのかもしれない。 「次のシーズンにつながると思う。もっと上を目指したい」 友野は、そう目を輝かせた 中庭氏は、友野の来季以降の将来性についてこんな意見を持つ。 「来季はシニアの大きな舞台で経験を積めます。日本の男子のフィギュア界は、羽生選手、宇野選手に続く次のグループとの間に差があっただけに友野選手は重要な存在になるでしょう。今後はスケーティングの滑るという部分の質を高め、しっとりと魅せるような緩やかな表現を身につけ、コンポーネンツ(演技構成点)の点数を上げていくことと、プログラムで使える4回転をもう1種類増やすことは必要になってくると思います。またジュニア時代は、他人に与えられた課題をクリアする事でステップアップできますが、シニアで活躍するには、自分自身で考えた課題に向き合うことが飛躍につながるでしょう」 日本勢が計3つのメダルを獲得した世界フィギュア。有力選手にミスが続いた“他力本願”のメダルだったかもしれないが、それがスポーツの醍醐味でもある。日本の男子フィギュア界にとって羽生、宇野に続く第3の男候補が生まれた意義深い大会となった。