ダクトレール照明を設置してみた 自由度の高いパナソニック「OSラインダブル」
os01.jpg 美術館や博物館に行くとよく見かける照明がある。天井に敷設しているレールに照明器具を取り付け、そのレール上を自由に移動して、目的の向へ光を当てられるものだ。 【画像】天井にダクトレールが設置されているパナソニックのオフィス 最近は喫茶店や新しい商業施設、オフィスのカフェテリアやホテルなどでもよく使われており、部屋の明かりのベースとなる環境照明は薄暗く落ち着きのある雰囲気を演出しながら、個々のテーブルやデスクはレールに設置したスポットライトで明るく照らされている。そのほか、天井から長いコードで吊り下げる電球色のペンダントライトなども飲食店でよく見かける。 以前はレールに設置できるのはスポットライトぐらいしかなく、展示場やカフェなど用途が限られていたが、最近ではLEDベースライトなどの環境光のほか、デザイン性に優れたペンダントライトやスポットライト、足元を照らすダウンライトなど多彩な照明器具が使えるようになり、配光で印象付ける空間づくりが流行っている。 このような自由な配光の基礎となっている「ダクトレール」や「ライティングレール」のトップメーカーであるパナソニックから、新製品「OSライン ダブル」が10月21日に発売された。 これまでの製品とどんな違いやメリットがあるのか、電気工事士の資格を持つ筆者が実際に部屋にも設置してみたので紹介したい。 ■ OSラインって他とどう違う? 基本用語や関連製品おさらい まず一般名や商品名、さまざまな呼ばれ方があるので用語の定義をしておきたい。 ダクトレール(一般名称) 「ライティングレール」や「ライティングバー」、「配線ダクト」などと呼ばれ、電極を備えたコの字型のレールを天井などに敷設し、そこに照明機器などを取り付ける配線用電材の一般名称が「ダクトレール」。「ダクト」には電線を隠すための「モール(ダクト)」の意味もあるが、ここでは照明の吊り下げおよび配線をするダクトを指している。 ダクトレール+(パナソニックの商品名) レール+照明器具を指すパナソニックの商品名。パナソニックにはさまざまな「ダクトレール」があり、それに対応した照明器具があるので、その総称を「ダクトレール+(プラス)」という。 ショップライン、OSライン、ファクトライン(パナソニックの商品名) 照明機器を取り付けるためのベースとなる各種「ダクトレール」の商品名。 「ショップライン」は、店舗や展示場などの照明に利用するもので、基本的にはアースがない(こちらはJIS非適合)。アースが必要になるコンセントを使う場合(パソコンなどの電子機器や水を扱う機器の電源を取る場合)は、「ショップライン」の中でもJIS C 8366に対応した「アース付き」を利用するのが望ましいようだ。ホームセンターで見かける他社製品も、アースがないダクトレールが多いので注意。 「OSライン」は、すべてJIS適合品のアース付きダクトレール。アースが必要なパソコンなどの電子機器から水を扱う機器の電源も取れる汎用性の高いダクトレールだ。店舗でも天井からレジの電源を取る場合などは、ショップラインではなくOSラインが最適。 ショップラインの照明器具のほとんどがOSラインでも利用でき、OSライン専用の機器も利用可能。他社製品も含めて、最も汎用性の高いダクトレールがJIS規格準拠の「OSライン」といえる。オフィスから店舗用の照明、一般住宅用まで幅広く使える。 「ファクトライン」は、工場用の大電力や三相電源に対応したダクトレール。基本的にOSラインや照明用ダクトレールとの互換性はないが、20A(単層)に対応する「ファクトライン20」はOSラインとほぼ互換性があるので(ともにアース付き)、オプション類は流用できるものがある。 ホームセンターや電材店では、パナソニック以外にも同様の製品がいくつかある。これは「JIS C 8366」で寸法などが規格化されているためだ。ただ、JISハンドブックもあたってみたが、実際にはJIS C 8366(これはレールだけの規格らしい)だけでなく、8472や8473などに分かれており、明確に規格適合品か否かを判断するのが難しいようだ。 また、パナソニックのブランド違いのダクトレールも、型番が異なることが多く、互換性をカタログなどで確認するほうがいいだろう。 ■ 「1本で2回路」の新しいダクトレールが登場 今回発表されたのは、パナソニック製の「OSライン」シリーズに新たに追加された「OSライン ダブル」シリーズだ。 従来品は1本のダクトレールに1回路のみ構成でき、同じレールに複数の照明を取り付けた場合、レールの電源を切るとすべての照明が消えてしまう。 一方で「OSライン ダブル」は、1本のダクトレールに2回路構成できるのが新しい点だ。 新しいOSライン ダブルは、1本のダクトレールに上下2段の2回路を設けた製品だ。器具の差込口となる下段は、従来の1回路用ダクトレールと互換性があるので、従来品の照明器具(たとえばショップライン用の照明器具)などをそのまま利用できる。上段に接続したい照明器具は「OSライン ダブルの上段用」の製品を利用するか、上段に接続するアダプタを従来型の器具とレールの間に挟み込んで、従来器具でも上段から電源が取れるようになっている。 こうして1本のダクトレールに2回路を構成できるので、下段に接続している照明は壁スイッチでON/OFFでき、上段に接続したコンセントは常時通電(ON)といった使い分けが可能。オフィスで使えば、パソコンを使うときだけ天井からコンセントを引き伸ばして電源を取り、使い終えたら天井に巻き戻せるのでスペースの無駄がない。また床下配線も不要になり、施工やメンテナンス性も向上する。 また照明の電源を上段と下段の交互にすることで、昼間は上段から電源を取る半分の照明を消して減光し節電。夜間は上下段の照明を点灯し明るさを確保するという使い方も可能だ。スポットライトを使えば、場合によって1灯ごとに間引いたりという使い方もできるだろう。 ダクトレールやジョイント、電源供給用フィーダーなどは1回路あたり125V 20A(定格)となっているので、器具数には注意が必要だ。 ■ 百聞は一見にしかず! OSライン ダブルで「作ってみた」 OSライン ダブルを詳しく知るために、電気工事士の資格を持つ筆者が自身の事務所に施工して、利便性や見た目、施工性などをチェックしてみた。なお施工にあたっては、電気工事士の資格が必要になることは気をつけていただきたい。 OSライン ダブルは2段2回路になっている分やや重い。1mあたり約1.38kgあり、レールの構造体部分は亜鉛鋼板なので錆びにくく強度もしっかりしている。従来型のシングルは1mあたり0.9kgとやや軽いが、構造体は同じ亜鉛鋼板なので、長いレールを両端を天井から吊って利用する場合でも、たわみが少ないのが特徴だ。 他社製品は構造体がアルミの場合が多く、長いレールにいくつもの照明を付けたり、重量物を設置する場合、天井吊りではレールの歪みに注意する必要がありそうだ。 また、実物を見ると質感の違いもある。OSラインは亜鉛鋼板に樹脂コーティングする特殊な製造方法なので、質感もよく絶縁性も高く、壁紙に馴染みやすくなっている(サイドに凸凹のラインが入っているので施工時に持ちやすい)。 一方、他社のアルミ製のレールはアルマイト加工で染色している。そのため、のっぺりとした感じが強く、天井の構造体には馴染みやすいが、壁紙の上では違和感があり目立ちやすくなるだろう。 最小限の施工は、レール1本に電源を供給するフィーダー、フィーダーと反対側を絶縁するエンドキャップとなる。電源は2.0φ単芯(VVF2.0)で行なう(1.6にも対応)。 まずフィーダーをレールに差し込むが、これがかなり重い。しっかり接続するためだが、取り外すときにはさらに重く、マイナスドライバーでこじ開けないと動かないときもある。 気になったのはカバーとフィーダーを固定するネジがアルミ製という点。インパクトやトルク調整せずに電動工具でネジを締めると、頭を潰すので要注意だ。 フィーダーの端子は速結端子なので、被服を剥いた電線を差し込むだけ。極性の指示はないが、少なくとも上下段の極性は合わせたい。 なお、送り線を通したい場合などは、ケースの側面をノックアウトできる。また天井からの配線はカバーに20mm角のスペースがあるので2本分の配線でも余裕があり、カバーでしっかり隠せるようになっている。 さらにアースはC字のレールの構造体にもつながっており、フィーダーの構造体を通して、直結端子の下のネジで接続する。 ここでは利用していないが、レールをつなぐためのジョイナも用意されている。直線状につなぐジョイナは上下段とアースの結線は不要だ。 2024年11月に発売予定の「ジョイナL」は、レールをL字に曲げて拡張でき、4つ使えばロの字を構成できるようになっている。またジョイナLはそのままで使うと配線なしで電源とアースが結線される。しかしカバーを開け、あらかじめ結線されている電線と電源線を入れ替えれば、電源を外部から供給するフィーダー代わりにもなる。さらに縦のラインと横のラインを別電源にすることも可能だ。 では、上段と下段にそれぞれスイッチをつけて回路を作ってみよう。壁スイッチの上が上段、下が下段としている。 配線が終わったら、あとは照明器具の取り付けだ。常時通電予定の上段には、リールコンセントをつけてみた。このコンセントは、電源を上段から取るものと下段から取るものが販売されているので、必要に応じて選ぶといい。OSライン(シングル)用のリールコンセントや照明機器の電源を上段から取りたい場合は、下段→上段変換アダプタがあるので、これを使ってもいい。 下段から電源を取る照明器具は、OSライン(シングル)やパナソニックのほかのラインナップの照明機器がそのまま使える。差し込みの向きを揃えて90度回転するだけでロック&結線完了だ。 逆に照明器具を外す場合は、ロックボタンを押しながら反時計まわりに半回転させると取り外しができる。ネジと同じなので戸惑うことはほどんどないはずだ。 ■ 拡張性の高いOSライン用デバイスの数々 OSライン ダブルやシングル用には、次のようなデバイスも発売されている。 ベース照明用プラグ フリーアドレスのオフィスなどで便利に使えるベースライト用アダプタ。これを使うとダクトレールにベースライト(環境光照明)が取り付けられる。上段と下段用があるので、上段をベースライト、下段をスポットやペンダントと区別して使うのもいい。 PLCプラグ PLCは電源線を利用して通信を可能にするネットワーク。最大通信速度は20~30Mbpsだが、イーサネットのケーブルを施設する必要がなく、屋外や半屋外のガレージや工場にもネットワークを設置したい場合などに向いている。無線LANが届かない空間でも電源線を利用してインターネット回線を敷設可能。 ターミナルプラグ オリジナル照明や他機器の電源を取るのに利用する。 ネットワークカメラ PLCプラグに専用の取り付け器具を挟むことでネットワークカメラ(優先)を取り付け可能。データはPLC経由で送信する。 以降のデバイスは、OSライン用ではなくショップライン用だが、下段から電源が取れる。もし上段から電源を取りたい場合は、変換アダプタを利用すれば上段からの給電も可能だ。 Bluetoothスピーカー スマホやPCなどからBluetoothの無線を経由した音楽や音声を届けるモノラルスピーカー。BGMや館内放送など配線工事一切なしでスピーカーの施工が可能。別途ワイヤレス送信機が必要。 ナノイーX発生装置 電車などにも採用されている空間の消臭や除菌効果のあるナノイーXを放出する装置。空気清浄機と異なりフィルターで臭いを濾し取るのではなくイオンで臭いの元を分解する。公共施設や臭い・菌が気になる食品工場や病院、ペット関連施設で使われる。 コンセント(1個口 ロック・アース付き) リール式のコンセントではなく、レールにコンセントを1個口設けることが可能。天井から電源が取れるので床下がスッキリする。会計用のレジスタや自動販売機、換気扇や冷蔵庫など高所のコンセントとして使える。 ■ レンズと電球を選べるダウンライトも LEDミニランプシリーズ OSライン ダブルの発表に合わせて、新型LEDミニランプを使った配光などをフィルターやリフレクターの交換で自在にカスタマイズできるダウンライトと、壁取り付けのスポットライトも発表された。 ダウンライトは埋込穴径75mmで、これまで最小だった径100mmよりかなり小さくなった。外径は85mmなので従来品の取付穴より小さくコンパクトだ。 壁付け用のスポットライトも、従来品の85mm径から45mm径へと小さくなり、存在感や威圧感の少ないスポット光源になっている。また合わせてダクトレール向けも発売される予定だ。 これらの照明器具は、40mm径の交換可能なLEDコンパクトランプが利用でき、温白色/昼白色/電球色が選べるほか、60W/100W相当の明るさも選べる。 さらに光を反射させるリフレクターやレンズを選び、環境光に近い広角からピンスポットまで配光を調整できるので、施工後でも配光などの調整が可能になる。 大きなシーリングライトを部屋の中央に据え、明るい室内を作っていた従来とは異なり、ホテルの一室のような柔らかい光でテーブルのみスポットで明かりを確保するといった演出照明が設計できる。 ■ 難しかった施工後の照明に自由度を 今回はパナソニックの新しいダクトレール「OSライン ダブル」を中心に、LEDミニランプを利用した新しいダウンライトや壁付けのスポットライトを紹介し、自分でも施工してみることでいろいろな魅力が見えてきた。 これまでは部屋の中心にシーリングライトを据えた代わり映えのない照明だったが、これらの照明器具により個性のある照明に変えられる基盤が用意されたといえるだろう。 さらに、これまで施工後の変更が難しかった配光や向きだが、施工後でも自由に照明設計を変えられるという自由度をもたらした。 実際の工事には資格が必要なこともあり、オフィスや店舗などに向けた製品ではあるものの、ホテルなどのスタイリッシュにデザインされた照明を参考にして、自分だけの照明で「らしさ」を演出するのも面白そうと思えた製品だ。
家電 Watch,藤山 哲人