「落ちない」オランウータンにあやかり合格祈願 東京・多摩動物公園
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木から落ちないオランウータンにあやかって合格を祈願 ── 東京都日野市の多摩動物公園が、受験シーズンの期間限定で、オランウータン舎の前に願掛けができる特設ブースを設置している。今年で10年目だが、人気の催しとして定着しており、多くの人が進学や就職、家族の健康などの願いを短冊や絵馬に託していた。
兵庫県からも願掛けに
正門をくぐり、公園内を奥の方まで歩いていくと、右側にオランウータン舎が現れた。願掛けの特設ブースには、願いごとを記入するための短冊が置かれた台と、短冊や絵馬をくくる結びどころが置かれている。催し初日の1月2日からすでに1か月強。たくさんの短冊と絵馬がところ狭しと連なっていた。 例年、願掛けに訪れるのは、大学や高校などの受験生とその親が比較的多いが、ほかにも資格試験の受験生、就職や家族の健康を祈願する人などさまざま。毎年、大体3000~4000枚の短冊が結びつけられている。園では短冊に加え、受験祈願限定で絵馬も用意した。絵馬は枚数が限られるため、1月の日曜日に限って配布、今は短冊のみ利用できる。 兵庫県川西市から息子の大学受験の付き添いで上京したという40代後半の主婦は、この日が受験日という息子の大学合格を祈願。「オランウータンは、落ちそうにみえても先にあるロープをつかんで落ちない。息子も、たとえ落ちそうになってもオランウータンのように次の手を見つけてほしい」と話していた。また、1月2日に娘の中学合格を祈願した東京都国分寺市の50代の女性は、「合格しましたので、夫と娘の3人でお礼参りに来ました」とにっこり。
動物園がオランウータンの願掛けブースを設置する理由
しかし、なぜ多摩動物公園のオランウータンが願掛けの対象になったのか。そもそも熱帯の動物であるオランウータンは、寒さが厳しくなると活動がにぶる。そうでないときは、スカイウォークと呼ばれる地上約15mに張られたロープをつたって空中を移動し、その様子を、来場者は地上から眺める。要は、オランウータンは落ちないのだ。 多摩動物公園の教育普及係を務める林亜紀さんは「スカイウォークが休止される冬期にも、オランウータンの特徴を知ってもらいたかった」と説明する。願掛けブースを設置することで、「願掛けをきっかけに、オランウータンの特徴や能力を伝えることができます」というわけだ。 短冊を置いた台の正面の壁には、腕や指が長いことなどオランウータンの特徴を説明するポスターも掲示し、来場者がオランウータンについて学習できる工夫もある。
祈願に訪れる多数の人々に対し、オランウータンたちは慣れたのか、日頃は無関心だという。それでも、林氏によると、暖かい日にスカイウォークの休止を解除したところ、「鉄塔の上からチャッピー(43歳・メス)が人々の様子をじぃっと見ていました。ただし、何を思っていたのか、表情からはつかめませんでしたが」。 ブースが設置されるのは2月23日まで。翌24日には、結びつけられた絵馬や短冊を燃やす「お焚き上げ」を行い、人々の願いがかなうよう祈願するという。 (取材・文:具志堅浩二)