「なぜ日本の研究は遅れているのか」…ノーベル賞科学者・山中伸弥が教育現場にみる、日本とアメリカの絶望的なほどの「差」
想像を絶する速度で進化を続けるAI。その存在は既存の価値観を破壊し、あらゆる分野に革命をもたらしている。人知を超えるその能力を前に、人類はどう立ち向かうべきなのか。 【漫画】刑務官が明かす…死刑囚が執行時に「アイマスク」を着用する衝撃の理由 それぞれの分野の最先端を歩む“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治が人間とAIの本質を探る『人間の未来AIの未来』(山中伸弥・羽生善治著)より抜粋して、新時代の道標となる知見をお届けする。 『人間の未来AIの未来』連載第24回 『「知識が邪魔することもある」二人の天才が語る、無知であることが武器になる「納得の理由」【山中伸弥×羽生善治】』より続く
「居心地がいい」環境が危ない
山中 詰め込んでしまったほうが、実は安心ですからね。これは今の教育の現場全体に言えることだと思うんです。 今、アジアはどこもそうかもしれないですけど、日本はまず受験というハードルがあるでしょう。幼稚園に入る時、小学校に入る時、中学受験、高校受験、大学受験。幼少期から、ともかく問いに対して正解を出すトレーニングを受けていますよね。教科書に書いてあること、先生の言うことは絶対正しくて、その通りに答えたらマルだし、そこに逆らったらペケ。それで点数が取れなかったら、希望の大学に入れない、そういうトレーニングを受けています。 だから失敗を経験することなく、教科書に書いてあることをそのまま答えたら目的の大学に入れるという環境で育ってきた子が大半です。そんな子がいきなり研究の世界に入ってきて、「教科書に書いてあること、先生の言うことは信じるな」とか、「実験結果で予想外のことが起こった時こそチャンスだ」とか言われても、それは簡単には受け入れられないですよ。 羽生 もう考え方が染みついてしまっている。
日本とアメリカの「違い」
山中 僕は日本とアメリカの両方で研究してきましたけれども、アメリカの子供のほうが割とのびのびしていて自由なんですね。大学生になってからは、ものすごく勉強しなければならなくなる。でもそれまでは、スポーツに打ち込んだりする子供たちがけっこう多いですね。研究者という観点からそういう姿を見ると、日本に比べてアメリカのほうが有利なような気がします。 羽生 有利というのは、アメリカのほうが意外なことに直面したり、答えがないような場面を経験したりしている機会が多いということですか。 山中 そうですね。日本は、子供たちにとって居心地がいいところですよね。親や学校の先生から「こうしなさい」と言われたことをその通りやっていると、いわゆる「いい子」となり、ある意味、非常に生きやすい。逆にそこから外れると、すごくしんどい思いをして生きづらくなります。 それから最近は、大人が子供を叱ることを避ける傾向がありますね。昔に比べたら、親はほとんど子供を叱らない。学校でも叱る先生がいません。生徒や学生にかける言葉でさえ、一歩間違えたらパワハラ、アカハラと言われてしまう。叱ることを推奨しているわけではないけれども、子供たちは自分の考え方や行動様式を否定されないので、見方によっては新しい世界に踏み出す機会が失われているわけです。