オブスタクルスポーツ聖地化へ、アクセス向上や人材育成課題 徳島県吉野川市に国内初の公認施設完成から半年
吉野川市鴨島町に国内初の公認施設となる障害物レース「オブスタクルスポーツ」のコースが3月末に完成し、半年余りが過ぎた。普段は有料開放され、週末を中心に利用客でにぎわっている。まだ認知度の低い新競技ながら、2028年ロサンゼルス五輪から近代五種の1種目に採用されることが決まり、注目度は上昇。全国各地でコース整備の機運が高まる中、県内関係者が目指す同スポーツの「聖地」として地位を固めるには交通アクセスの向上や人材育成が課題だ。 【動画】障害物レースのオブスタクルスポーツ日本選手権、吉野川市で初開催 初代チャンピオンの座争う 10月13日に行われた第1回日本選手権。国内初となったオブスタクルスポーツの公式大会には、国内各地だけでなくフィリピンや香港、ブラジルからも出場者が集まった。20秒台で駆け抜けるトップ選手もいれば、規定回数を超える失敗やタイムオーバーで途中失格となる参加者も。観客も多く詰め掛け、会場は盛り上がりを見せた。 運営会社によると、イベント開催時以外にも、週末は1日平均約15組が来場。香川や岡山、大阪など県外から訪れる人も多い。障害物をクリアしながらゴールを目指す人気テレビ番組「SASUKE」が好きな30、40代の男性が目立つ。 23年1月設立の日本オブスタクルスポーツ協会(JOSA、東京都)によると、東南アジアや北南米の諸国に比べ、日本は環境整備が遅れており、これまで選手はほとんどいなかったという。国内の競技人口は把握できていない。 吉野川市のコースは、JOSA役員から相談を受けた地元の建設会社松島組の松島清照会長(67)が「日本初になるなら」と快諾して整備。スピード感を重視したため行政には頼らず、約4千万円の費用は同社が全額を負担した。 民間主体で誕生した施設だが、市も協力は惜しまない。大会やイベント開催時は近隣の市鴨島運動場(吉野川河川敷)を駐車場として開放したり、交通整理のスタッフとして市職員を動員したりして運営をサポートしている。 JOSAの野上等理事長(73)=東京都=は「これから発展していく競技だけに、国内にコースが整備されたことは大きな第一歩になった」と話す。 オープン以降、イベントや公式大会を順調に重ね、同スポーツの「国内発祥の地」として市の名は浸透しつつある。一方、同種コースの整備に向けた機運は各地で高まっている。野上理事長によると、現在は全国6、7カ所で検討する動きがあるという。 こうした後発組の増加が見込まれる中、今後は「聖地」として存在感を発揮できるかが鍵を握る。 課題の一つは、都市部から離れた地理的なデメリットをいかに克服するかだ。4月のデモ大会に千葉県から参加した男性(24)は「普段からここで練習したいが、旅費もかかるので簡単には来られない」と話した。コースの体験と県内観光を組み合わせた旅行商品の開発や安価な宿泊先の確保などを急ぐ必要がある。 海外からの誘客も見据え、関係者は11月16日に就航する徳島―香港間の国際定期便に期待を寄せる。香港には競技者が多く、交通アクセスが良くなれば訪問客増加につながるためだ。 このほか、競技人口の拡大はもちろん、コーチや審判、大会運営を支えるボランティアの養成など人材育成も欠かせない。 JOSA四国ブロック長の松島光作さん(39)は「部活動としてオブスタクルスポーツに取り組む学校が出てくればうれしい。市からオリンピック選手が誕生するよう、裾野を広げていきたい」と意気込む。 オブスタクルスポーツ 走る、跳ぶ、登るといった多様な運動能力を生かして障害物をクリアし、ゴールまでのタイムを競う。オブスタクルは「障害物」を意味する英語。ニンジャレース、オブスタクルコースレース(OCR)、アドベンチャーレースなどさまざまな種類があり、このうち吉野川市に整備されたのはOCR施設。全長100メートルの直線コースに12種類の障害物が配置されている。