【ネタバレレビュー】「七夕の国」謎もおもしろさも加速する4&5話!ついにベールを脱いだ、山田孝之演じる“頼之”の姿に驚愕
「寄生獣」や「ヒストリエ」など唯一無二の世界を圧倒的な迫力と共に描いてきた漫画家、岩明均。彼のもう一つの傑作で、壮大なスケールと刺激的な描写から「実写化困難」とも言われてきた「七夕の国」が実写ドラマ化され、ディズニープラス「スター」にて独占配信中だ。ある日突然、街や人が“球体”に丸くエグられ、消失するという怪奇事件が発生。主人公で平凡な大学生の南丸洋二(通称:ナン丸)が、ひょんなことから事件解明に巻き込まれていく姿を描きだす。配信が始まるやSNSでは「続きが気になりすぎる」「めちゃくちゃおもしろい」と興奮の声が続々と上がっている。それもそのはず、謎が謎を呼ぶような事件が巻き起こり、あらゆる思惑を持つキャラクターが絡み合う。ミステリーにどんどん飲み込まれていくような展開で視聴者を大いに魅了している。 【写真を見る】山田孝之が演じる頼之のビジュアルに驚愕!彼の行動から目が離せない MOVIE WALKER PRESSでは、そんな「七夕の国」の全話レビューをお届け。本稿では、度肝を抜かれるようなキャラクターがお目見えし、ミステリアス濃度もさらに深化し、衝撃的な出来事の連続となった第4話、第5話をライターの成田おり枝がレビューする。 ※本記事は、ネタバレ(ストーリーの核心に触れる記述)を含みます。未見の方はご注意ください。 ■「七夕の国」ここがすごい!「パンッ」とエグる“⚫︎”が目の前に現れた感動 原作は、1996年から99年にかけて小学館・ビッグコミックスピリッツにて不定期連載された同名コミック。紙に極小の穴をあけるという、なんの役にも立たない地味な超能力を持っているナン丸(細田佳央太)が、怪奇事件の謎を追って“丸神の里”というある町を訪れる。第1話から第3話では、“丸神の里”の歴史が球体と深く関わっていること、ナン丸のルーツがその町にあることが明らかに。いろいろと秘密を隠していそうな町民たちがナン丸を歓迎するなか、ナン丸は東丸高志(上杉柊平)、幸子(藤野涼子)という兄妹と出会い、高志からの指導で、自身も球体を操れる力があることを知った。そして帽子とマスクを付けた不審な男が巨大球体を国会議員に向かわせ、殺害するという衝撃的な事件も描かれた。 原作を読んだ当時、丸いものを見ると「触ったら手がエグれてしまうのでは…」という妄想に震えた覚えがあるが、実写として現れた“⚫︎(まる)”には新鮮な驚きと感動があった。透けているようでもあり、内部でなにかがうごめいているようでもある異様な黒い物体で、「パンッ」という音と共に、あらゆるものをエグってしまう謎の球体。CGチームは「つい触りたくなってしまうような、心をざわつかせる物にしてほしい」というオーダーをもとに、球体の製作に挑んだという。物語が進むごとにぐんぐん大きくなるこの球体が大事件を引き起こし、いろいろな人の心までをエグっていくと思うとただならぬ高揚感に包まれる。 また個性豊かなキャラクターを演じるキャスト陣も、すばらしい熱演を披露している。「七夕の国」を牽引していくのは、ナン丸の人柄のよさだ。映画『町田くんの世界』(19)やドラマ「ドラゴン桜」、NHK大河ドラマ「どうする家康」など話題作への出演を重ねる細田だが、本シリーズでは彼自身の持つ柔らかさが見事にナン丸に投影され、壮絶さを増していく物語のなかでひと筋の希望の光となるような存在感を発揮している。どこかユーモラスな香りを漂わせているのも魅力的で、ナン丸を追いかけながら物語の結末を見届けたくなる。 第4話では、「新技能啓発セミナー」という怪しげなセミナーを開いている高志から、球体の力を披露してほしいと頼まれたナン丸。大勢の人の前でボール大の球体を操り、彫像の首をゴロリと落として見せる。会場もドッと湧き立ち、高志に「さすが」「特別な人間にしかできないことだよ」と声をかけられたナン丸は、「そうかなあ」と浮き足立ってまんざらでもない表情を浮かべる。「自分は中途半端だと思っていた」と胸の内を吐露する場面など、細田が将来やアイデンティティに悩む等身大の若者像をみずみずしく体現しており、またしてもナン丸を好きになってしまう人も多いことだろう。 実は「新技能啓発セミナー」は、高志と八木原(金田哲)がタッグを組んで、「この力を学べる」とインチキ講座として開いていたもの。上杉は、暴走していく高志の狂気を低音ボイスにもにじませ、金田は八木原のうさんくささを軽やかに表現。またセミナーにはナン丸と同じ大学に通う浅野も参加していたが、浅野役に扮する倉悠貴は、岩明漫画に出てきそうな雰囲気を醸しだしていて個人的にはとてもテンションが上がった。隅々まで「いいぞ!」とワクワクするようなキャストが顔を揃えているのも、本シリーズの魅力なのだ。 ■山田孝之演じる頼之が本格的に登場!ベールを脱いだ正体に驚愕 “⚫︎”の実態に対する疑問はもちろん、“丸神の里”の住人たちのどこかよそよそしい態度や血筋に対する異様なほどの崇拝、町民だけが見る悪夢、その里にルーツを持つ民俗学教授である丸神(三上博史)の失踪事件など、本シリーズにはたくさんの謎が散りばめられている。第4話では、丸神教授を慕うゼミの助教授の江見(木竜麻生)やゼミ生の多賀谷(濱田龍臣)、桜木(西畑澪花)、が“丸神の里”の七夕祭がなぜ7月ではなく6月に行われていたのかという、“季節外れの七夕祭り”の真相に迫っていく。知恵を絞って旧暦とグレゴリオ暦を重ね合わせていくシーンもおもしろく、このように謎がほどけていく爽快感も本シリーズの醍醐味と言えるだろう。 長髪に帽子、覆面をつけた不審な男が、いよいよ本格的に登場するのも今回の大きな見どころだ。男の正体は、村を去ったかつての神官、丸神頼之(山田孝之)。“丸神の里”で墓参りをする幸子の前に現れた頼之。“窓を開いた者”である幸子が悪夢を恐れると、頼之は自分が「悪夢を終わらせる」と宣言するほか、建設会社の社長が死亡した事件の犯人は自分だと告白する。顔がほとんど隠れた状態であるにもかかわらず、山田が演じる頼之は、その佇まいや声のトーンからも、彼の苦悩と決意がひしひしと伝わってくる。 第4話のラストでは、頼之が“手がとどく者”の力を利用しようとする権力者に「富を独占したいだけだろう」と真理を突きつけつつ、帽子と覆面を取り払った。その姿には、驚くこと必至!頼之のビジュアルは特殊造型でマスクを作り、撮影後にCGを付け加えているのだとか。プロデューサーによると、顔が見えない状態で頼之を演じ切った山田は「劇中で自分の顔が見えないことは、まったく問題ではない」「この役に自分の顔はいっさい必要ないと思います」と言っていたそう。頼之の登場シーンは代役をいっさい使わずにすべて山田が演じており、作品のためならば全身全霊を注ぐという、彼の俳優魂がみなぎる1作としても見逃せない。一体、頼之はなぜこのような姿をしているのか。彼の目的とは?ナン丸のおでこにできたデキモノとの関係は?気になることがまたしても増え、第4話はシリーズ最高潮とも言えるワクワク感と共に幕を閉じた。 ■せつなくも美しい、ナン丸と幸子のよるロマンチックなシーンがお目見え 力を悪用しようとする高志に対して、特別な能力に目覚めたナン丸が「自分になにができるのか」と思考を深めるのが、第5話だ。 ある日ナン丸は、ショッピングセンターの駐車場で、子どもが車に閉じ込められてしまった場面に遭遇。力を使って車の窓をエグり、子どもを救出した。その動画がネット上を駆け巡り「あの青年は誰だ?」と一躍時の人となる。「世の中の役に立つ使い方がある」という想いを強くしたナン丸は、“ゴミ消し屋”として力の活躍できる場を探っていく。一方の高志&八木原コンビは、いじめを隠蔽した学校や、パワハラや不正を行っている企業に対して天罰を与える、“えぐり魔”として存在感を見せつけていく。大きな力は、使い方次第でどんなものにも変容する。これは現実世界も同様で、自分を活かすためにはどう生きればいいのか、自分はなんのために生きるのかという、人生のテーマに通じるものだ。また頼之の言葉にも、ぜひ注目してほしい。前話で覆面を取った頼之は恐ろしいビジュアルをしているが、限りない欲望を曝けだす人間に「あんたのほうがよっぽど化け物じみている」と言い放つなど、現実となぞらえてもずっしりとした重みがあり、ハッとさせられる人も多いことだろう。 そして幸子が上京し、高志と対峙。そこに頼之もやってきて、ついにナン丸、幸子、高志、頼之が東京で相まみえる。頼之が巨大な球体を操り、「パンッ」と大きな建物をエグる瞬間は第5話のゾクゾクするようなハイライト。頼之のカリスマ性や“⚫”の恐怖を改めて実感させられる回となるが、ナン丸と幸子のロマンチックなシーンも目にできる。 せっかく東京に来たのだからと、一緒にラーメンを食べにいくナン丸と幸子。ラーメンを「おいしい」と笑顔を弾けさせながら頬張る幸子は、“窓を開いた者”の呪縛から一瞬逃れられたようななんともキュートな表情をしている。それからは東京タワーが輝く夜景を前に、未来について話し合う2人。恋愛ドラマならば目一杯に胸キュンできるような美しいシーンだが、能力をあくまでポジティブに捉えるナン丸に対して幸子は常に否定的で、せつないひとコマとして胸に迫る。その秘密を打ち明けようとする幸子の様子から、これまでどれほど彼女が傷ついてきたのかが伝わってくるのだ。超常ミステリーの世界を描いた作品ながら、藤野が地に足のついた、私たちと同じ地平を生きる人物として幸子を演じており、幸子の幸せを願わずにはいられなくなる。幸子たちと対峙のうえ、高志を連れて行方をくらました頼之が、どのような行動に出るのか。ナン丸と幸子の関係性はどうなるのか…。ドラマ性も深まる「七夕の国」から、ますます目が離せない! 文/成田おり枝