横浜・寿町ドヤ街編(4)〝人間交差点〟住人たちの毎日 元自衛隊特殊部隊、都知事の元彼と1回目と2回目で話すことが違う
【実録・人間劇場】 横浜のドヤ街・寿町の中心にある「横浜市寿町健康福祉交流センター」前の交差点は、ドヤで暮らす住人たちのたまり場となっている。寿町に事務所を構えている私もよくこの交差点に入り浸っては、住人たちに酒をおごったりおごられたりしている。 寿町に暮らすようになってわかったが、この街には心を病んでいる人が少なからずいる。それは話しているうちにわかってくることもあるが、自分から言ってくることもあるし、ドヤの部屋に転がっている処方箋薬を見てわかることもある。 とある日の深夜1時、交差点で伊藤という60代の痩せ細った男性と知り合った。彼が一方的に話す経歴がとにかくすごい。学習院大学卒。ボクシングのフライ級王者にして、タイのムエタイ王者にもキックルールで勝ったことがある。そして、つい一昨日も近所にある「カシアスボクシングジム」で道場破りを果たしたという。 私は「すごいですね」と言うしかない。 「近くのドヤに住んでいる元妻に会うからついてきて」 伊藤さんに言われるがままついていくと、目の前に不法投棄のゴミが散乱しているドヤについた。 「大西くーん」 伊藤さんがドヤの1階にある部屋のドアをたたくが、当然反応はない。なぜ「大西くん」なのかもわからないが、隣の部屋のドアが少し開いている。こんな時間に迷惑じゃないかと隙間から中をのぞくと、首にコルセットを巻き、介護用ベッドに寝たきりの老人が天上を見つめていた。 「俺は普段、カバンをつくっているの。工場に連れていってあげる」(伊藤さん) もちろんすでにシャッターは閉まっていたが、連れて行かれた先にあったのは、福祉サービスの作業所であった。 交差点で知り合った高橋という50代の男性は病気を患っている上、重度のアル中でもあった。酒に酔い、交差点にいる人たちに「金を貸してくれ」と言って回り、全員から断られ、暴れ回り、そして殴られる。そんなことの繰り返しなので、もはや誰からも相手にされず、邪険にされていた。 私は高橋という男性の部屋に2回、遊びに行ったことがある。元自衛隊特殊部隊だとか、都知事の元彼だとか、1度目と2度目で言っていることが違う。