「うつ病が90%以上寛解」下村博文元文科相が絶賛する”魂の開発者”の治療法に専門家が唱える苦言
◆《自民党派閥の裏金問題を巡り、岐路に立たされている下村博文元文科相(69)。安倍派の事務総長を務めていたことで、裏金問題の全容を知るキーパーソンと目されているが、渦中の下村氏が絶賛している人物がいるという。それが“魂の開発者”を名乗る佐藤康行氏だ。心療内科「YSこころのクリニック」を経営する佐藤氏だが、その治療法には疑問の声も上がっているという。その実態に迫る》 【画像】ま、マジかよ……!「うつ病が90%寛解する」と自画自賛するYSクリニック 「真我・心の専門家」を名乗る佐藤康行氏の公式HPのプロフィール欄に、こんな記述がある。後段で詳述するが、これは4月12日時点のプロフィールで現在は一部が修正されている。 〈「世界初の立ち食いステーキ」を考案し、8年で年商50億円(70店舗)を達成した。その後経営権を譲渡、「心の学校」を創立。約30年にわたり「本当の自分=真我」に目覚めることを伝え続け、グループ全体で52万人以上の人生を劇的に好転させてきた。’14年、JR東京駅前に「YSこころのクリニック」を開院、うつ病治療では90日以内の寛解率が90%以上という成果を上げている。 研修指導は、ノーベル賞候補となった科学者や有名な医師、大企業の経営者、社員教育などでの実績があり、ANA(全日空)ではグループ全社員43,000人を対象に研修が行われている。国会議員を始めとした政治家からの信頼も厚く、文部科学大臣を輩出。政府からの依頼を受け、ひきこもり問題解消で大きな成果を上げた。また、公立小学校のいじめ・不登校児問題も、多くの事例を解決に導いた〉 「佐藤康行 真我ビル」に入っている「YSこころのクリニック」の職員に聞いたところ、この「文部科学大臣」とは、裏金問題をめぐり1年間の党員資格停止処分を受けた自民党の安倍派元幹部・下村博文元文科相なのだという。同クリニックでカウンセリングを受講したという男性は「このビルの近くに(自民党議員が使う)公用車が停まっているのを見たことがある」と証言した。 自己啓発セミナーや霊感商法に詳しい、ジャーナリストの鈴木エイト氏がため息をつく。 「下村氏は過去にニセ科学として名高い『EM菌(微生物の一種のEM菌が世界を救うという説)』や『ナノ純銀除染(銀のナノ粒子が放射能を分解し除染できるという説)』を礼賛(らいさん)するなど、科学的思考とは真逆な方向へ振れてしまう傾向があります。ニセ道徳史である『江戸しぐさ(江戸時代に広がった生活マナーだとしてもてはやされたが、史料の裏付けも科学的根拠もない)』にも傾倒しており、リテラシーの低さが気になります。’12年12月の第二次安倍内閣で文科相になった際は、ネット民から“文部疑似科学大臣”と揶揄されました」 件(くだん)の佐藤康行氏は「ステーキのくいしんぼ」の創業者で、筆者が訪ねた「佐藤康行 真我ビル」で自己啓発セミナーの開催やメンタルクリニックやカウンセリング事業などの経営を行っているYSグループの代表である。 下村氏は’21年12月6日、自身のFacebookに以下のような投稿をしている。 〈三十年来のご縁のある佐藤康行さんの真我開発講座に参加しました。(中略)真我とは、魂の開発であり、本当の自分を開発することでもあります。究極のアウトプット教育とは、自分自身を知ることであり、人生の目的を知ることです。教育は人が幸せになるためにあるのであり、そのヒントをセミナーで感じました〉 佐藤氏のセミナーで研修指導を受けることで「人が幸せになるためのヒント」をつかみ、下村氏は本当の自分を開発することに成功したのだろうか。佐藤氏が「文部科学大臣を輩出」したというのは、どうやら事実のようだ。 だが、佐藤氏にはいくつか不審な点がある。たとえば先に紹介した氏のプロフィールやチラシを見ると、佐藤氏が「ANA(全日空)ではグループ全社員4万3000人を対象に研修」を行ったと読めるのだが、ANA広報部はこう回答した。 「一部の研修において松下幸之助などさまざまな経営者の言葉を引用する際に、佐藤氏の著書にある『美点発見(人の良い部分を探す)』という言葉を引用することはあります。しかし、佐藤氏本人が研修講師として来社したという事実はありません。HPに弊社の名前を記載頂くのは許可しましたが、微妙な表現で書かれていますね」 ウェブ上で検索すると、佐藤氏のセミナー「真我の実践会」には肯定的な意見もあった一方で、「高額な割には全く効果がない」「缶詰状態でマインドコントロールされる」「一回受けた後の勧誘がしつこい」といった批判も寄せられていた。 同セミナーの参加費は一回8万8000円と高額である。ただし、会員になり、月会費1万1000円を納めれば、セミナーに一回参加するごとに3000円ほどの場所代を払うだけで済むという。HPによると、かつてセミナーの参加費は一回17万6000円していたが、月会費制度を設けることで安くなったという。 また、「YSこころのクリニック」は精神科医が院長を務め、神経内科医が非常勤で働いているが、同クリニックの患者に聞いたところ、「診察のみを受けることは原則的にできない。YSメソッドと呼ばれる“真我を開発する”自己啓発セミナーとカウンセリングカリキュラムのセットになります」という。 同クリニックには「うつ病を寛解する」というプログラムがある。コースは複数あるが、6日で受講するコースが29万7000円、2日で受講するコースは9万9000円となっている。これが高いか安いかは人それぞれかもしれないが、少なくとも一般庶民が簡単に支払える金額ではない。 同クリニックの看板・パンフレットなどによると「YSメソッドは画期的な治療法」であり、「うつ病の治療の実験では、寛解率90%以上、再発率3%未満」「改善率97%以上の実績を出している」「多くの方がすぐに改善を実感した」「確実にうつを治す」といった強気な文言が並んでいる。ただ、HPを見る限り、そのデータの根拠は明確ではない。 「きさらぎ法律事務所」の福本悟弁護士は「同クリニックのHP広告は医療広告ガイドラインに反する可能性がある」と指摘する。 「’18年6月1日に医療法が改正され、ウェブサイトによる情報提供も広告規制の対象とされました。『YSこころのクリニック』のHPは『医療広告ガイドライン』で禁止されている誇大広告、もしくは比較優良広告だと指摘される可能性があります。うつ病の『寛解率90%以上、再発率3%未満』とHPの1ページ目に大きく表示されていますが、『寛解』とは症状が収まっている状態を指す言葉です。完治との違いに気づかず、病気が完全に治った状態と誤解されて、来院する患者さんがおられるかもしれません。ましてや『改善率97%以上の実績を出している』『確実に治る』の表現はデータの根拠が明白ではありませんし、『多くの方がすぐに改善を実感した』とあるのは適切ではない。うつ病は患者さんによって、症状も投薬の効果も違いますから」 同HPが誇大広告だと認定されれば、2年以下の懲役もしくは200万円以下の罰金、またはこの両方が科される。 「院長医師の挨拶よりも先に『佐藤康行YSメソッド』に関する説明と『効果がある』という文言が置かれているのも問題です。医療とは医師が実際に患者さんを診察し、患者さんにとって適切な判断と最良の効果がもたらされる仕組みであり、その前に『佐藤康行YSメソッド』ありきではないはずです。うつ病の治療を希望する患者さんを誘引する広告としては不適切だと思います」(福本弁護士) 下村氏は佐藤氏とどういう関係なのか。「心の学校」の会員なのか。同社に関する批判の声をどう聞いているのか。下村博文事務所に質したが、取材申し入れから1週間が過ぎてもなお未回答のままだ(4月19日時点)。 一般社団法人佐藤康行研究所にも佐藤氏のプロフィールにある「文部科学大臣」は下村氏か、下村氏とはどのような関係なのか質したが、こちらも回答期限までに返答はなかった。回答をしない一方で、佐藤氏のプロフィール欄から「文部科学大臣」に関する箇所がカットされていた。 一方、「YSこころのクリニック」からは「HPが誇大広告・比較優良広告だと指摘されている点について、どう考えるか」という質問に対して、下記の通り回答があった。 「『うつが90%以上寛解する』につきましては、当院サイト内にて一般公開している『うつ病臨床90日プログラム』治験結果(’14年3月~’17年1月26日まで)のデータが証明している通りです。YSメソッドを条件通りに行った場合、数字のような結果が得られております。これは、根拠を明確にしたデータとしてHPに掲載しており、厚生労働省の医療広告ガイドラインを遵守してHPを作成しております。厚労省・デロイトトーマツ社による確認でも問題ございません。また厚生労働省の医療広告ガイドラインをふまえまして、当院サイト内において「確実にうつが治る」という表記はしておりません」 「YSこころのクリニック」のHPにアップされている「YSメソッド『うつ0』プログラム うつを寛解された患者様100名の治療データ」を見ると、YSこころのクリニックの患者100名のうち、うつ病から完全快復した患者は1名となっている。それ以外の96人の患者には「寛解」「回復」という曖昧な表現が使われており、うつ病の治療薬を断薬できたのは7名のみだった。「完全快復」したとされる患者も治療に6ヵ月以上を要したと記載されていることを付け加えておく。 ちなみに「YSこころのクリニック」は「確実にうつが治るという表記はしていません」と答えたが、クリニックで筆者が受け取ったチラシにも、クリニックのHPにも「うつを確実に治す」という文言が明記されている。彼らの主張には矛盾があると言わざるを得ない。 下村氏には元文部科学大臣らしく、しっかりとファクト、現実に目を向けていただき、裏金問題をはじめとする政治不信の改善に努めてほしいものだ。 撮影・文:深月ユリア 慶応義塾大学法学部政治学科卒業。「深月事務所」代表。数々の媒体で執筆し、女優、モデル、ベリーダンサー、FMラジオパーソナリティーとしても活動。動物愛護活動も精力的に行い、テレビ神奈川の番組「地球と共生する、アニマルウェルフェア」を自社でプロデュース
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