クラシックレーサーを思わせる装備を全身に纏ったスポーティシングル、スズキ テンプター
先駆者「グース」の苦悩
このテンプターの発売前、スズキはグースで一度シングルエンジンのスポーツバイクにチャレンジしている。1991年に発売され、250ccと350ccのあったグースだが、上級モデルの350はオフロードモデルDR350譲りの油冷4ストロークSOHC4バルブ単気筒エンジンを、スチール製のトラス形状ダイヤモンドフレームに搭載。アルミ製スイングアームや倒立フロントフォークや、前後ディスクブレーキなど現代的なスポーツバイクであった。このグース350はSRをライバルとして開発はされておらず、あきらかにジレラ サトゥルノをターゲットとしていた。多気筒エンジンのレーサーレプリカに対抗するように、コーナリング性能の高さをアピールしたグースだったが、販売的には苦戦。フレームのデザインをサトゥルノと同じ萩原直起氏が手がけていたこともあり、半額で買えるサトゥルノのディフュージョン版としてしか見られなかったというのが敗因だろう。
テンプターの弱点、それは「完成され過ぎていた」こと
グースで苦渋を舐めたスズキが新たに企画したテンプターは、SRのカスタムトレンドを各部に取り入れた作りと言えた。車体のデザインはSRよりもクラシカルで、そのままでも充分にスタイリッシュなもの。フェザーベッド風のフレームや直立したシリンダーを持つエンジン、各部のメッキパーツやタンクの立体エンブレムなど英国車を思わせる装備で高い完成度を誇っていた。また、キックスタートオンリーであったSRに対して、セルフスターターを備えていたという点も見逃せない。 このように全部盛りとでも言うべき充実の装備を与えられたテンプターは、スズキの対SR用決戦兵器とでも言うべき完成度であったが、残念ながらSRの牙城を崩すまでには至らなかった。これは筆者の私的な意見だが、SRに勝てなかった最大の原因は「隙の無さ」ではないかと思う。この「隙」というのは、ユーザーが手をいれる「隙」のことである。装備やデザインが整いすぎているテンプターには、ユーザーの目には「最初から完成しているカスタムバイク」と映ったのではないだろうか。意図した訳ではないが、SRはカスタムバイクの素材として購入するユーザーが多く、長い間生産が続けられていたこともあってカスタムパーツも豊富であった。そうした条件の相乗効果がSRブームを引き起こしたのであり、テンプターはカスタムスタイルの1ジャンルとしてしか選択されなかったのではないだろうか。テンプターというバイクは見れば見るほど良くできたバイクだけに、そんな気がしてならない。
テンプター主要諸元(2000)
・全長×全幅×全高:2110×730×1040mm ・ホイールベース:1430mm ・シート高:780mm ・車重:159kg(乾燥) ・エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC4バルブ 396cc ・最高出力:27PS/7000rpm ・最大トルク:3.0kgf-m/5000rpm ・燃料タンク容量:12L ・変速機:5段リターン ・ブレーキ:F=ドラム、R=ドラム ・タイヤ:F=100/90-18、R=130/80-17 ・価格:46万9000円(税抜)
後藤秀之