朝ドラヒロインはどうあるべき? 『おむすび』主人公の名前が結/ムスビンである理由
根本ノンジ脚本『無能の鷹』では極めて理想的な世界が描かれている
根本ノンジが『おむすび』と並行して手掛けている『無能の鷹』(テレビ朝日系)では、翔也のような、電話にうまく出られない社員にも、上司や同僚が寛大に接することだろう。『無能の鷹』は仕事がバリバリできずとも、何かしら役に立つことを、本人に圧を与えることなく、まわりが先回りして道をつくり、当人は気づかないうちに役に立っていたりする、極めて理想的な世界を描いている。 『おむすび』はもしかして、『無能の鷹』のように、「朝ドラの主人公はかくあるべき」という理想からかけ離れた人物にも理解を、という狙いがあるのかもしれない。 現代の風潮としては、女性が男性に尽くすことは前時代的であり、女性は自立し、自分がほんとうにやりたいことをすべきということが主流である。それとは真逆の、好きになった男性のためになることを進路に選んだ結は現代のロールモデルになりづらい。これまでの朝ドラで、好きな人と結婚して、その人を支えることを選ぶ主人公もいたにはいた。『まんぷく』(2018年度後期)はその代表格であろう。主人公の福子(安藤サクラ)は徹底して、家を守り、夫・萬平(長谷川博己)を支えていた。たまには、そういう主人公がいてもいいだろう。電話にうまく出られない人がいてもいいし、彼氏のために栄養士になりたい人がいてもいい。森山(小手伸也)のように40代で栄養士を目指してもいい。 自分の考えと違う人を認めない態度をとるのは、沙智(山本舞香)と佳純(平祐奈)である。このふたりはなぜか徹底して、他人を軽く見て、いがみ合っている。沙智は、強い信念を持ち、努力していて、信念を感じない人に厳しい。佳純は、恵まれた環境に生まれたお嬢様で口調は穏やかだが、なぜか嫌味っぽい(うわ、なんか朝ドラウォッチャーにいそうなキャラクターである)。そんな彼女たちを刺激しないように、つなごうとするのが結なのだ。自分から率先して立ち上がり、みんなを引っ張っていくタイプではないが、それぞれの個性を認め、気を使いながら、繋いでいく。あだ名・ムスビンは栄養学校では採用されないが、彼女の結ぶ能力が今後発揮されていくのかもしれない。第40話の、献立作りの課題で、小松菜をスイスチャードに代替するアイデアを結が思いつくのは、気分爽快な展開であった。 結はすっかりギャル化して、押し出しが強くなったように見えるが、案外、糸島で鬱々としていたとき、人に気遣って自分を出せずにいた、一歩引いた彼女も残っているようだ。見た目はど派手だが、役割は裏方タイプ、そういう主人公もいてもいい。
木俣冬