宗教国家の米国、今や無宗教が最大「宗派」に 保守政治との一体化を敬遠、トランプ氏は特製聖書を販売【ワシントン報告⑯キリスト教】
米国はキリスト教主体の宗教国家の一面を持つ。人工妊娠中絶や同性婚が大統領選の重要な争点になるのも、子供は神からの授かり物というキリスト教の考え方が根底にある。半面、無宗教の人が増えており、調査機関によれば、宗派で分けると国民の28%を占め最大のグループになった。中絶や同性婚を容認するなど社会が多様化する中、保守的な政治と宗教の一体化が敬遠されている。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕) 【写真】コロナ禍で米国人の心に起きた小さな変化 21年
▽すがすがしい朝 ワシントン近郊バージニア州アーリントンのファースト・プレスビテリアン教会。日本では長老派と呼ばれる宗派の中の一つのグループに当たる。信者は保守派もリベラル派もいるが、全体としてはややリベラル寄りという調査がある。3月中旬の日曜礼拝には約50人が集った。子供もいれば、お年寄りもいる。世代別では10~20代が比較的少なく見えた。 「全てを学び終え、全ての答えを得たと想像した瞬間のわれわれをお許しください」。全員で罪の告白を読み上げ、賛美歌を歌う。冷気がぴんと張った朝、厳かな礼拝への参加は、すがすがしかった。教会との間を取り持ってくれた女性信者に付き添ってもらい、礼拝の作法をまねた。約1時間の礼拝後、別室に用意されたコーヒーやケーキを囲んで、近況を伝え合う。地域住民の定期集会の側面もある。笑顔が絶えなかった。 ▽世俗化やネットが原因 無宗教の広がりなど教会が抱える課題は多い。日曜礼拝ではビリー・クルツ牧師が聖書に基づいて説教する。何を心がけているか尋ねると「みなさんの気持ちに自信を与え、希望を感じて帰ってもらえるよう努めています。完全な人間はおらず、それぞれが信じる価値の実現に貢献したいという気持ちです」と語った。
調査機関ピュー・リサーチ・センターによると、米国ではプロテスタントが40%と最も多く、バイデン大統領が信じるカトリックは20%。プロテスタントはプレスビテリアンのほか、バプテストやメソジストなど宗派がさまざま分かれるので、結果的に無宗教の人の割合が最大になる。内訳は無神論の人もいれば、特定の宗派に属さない人まで幅広い。信じる宗教が何もない、ということを必ずしも意味しない。 無宗教が広がる理由は何か。宗教と政治の関わりに詳しいイースタン・イリノイ大のライアン・バージ准教授は著書で「世俗化と政治、インターネットが主な原因」と分析する。若者を中心に中絶や同性愛への理解が広がるのに対し、福音派などの宗教右派と保守政治が手を結ぶ状況が進み、若者の宗教離れを招いていると見る。「1978年において毎週教会に通う白人の半分が民主党員だったのに、今では4分の1に減っている。政治の右傾化がリベラルな人たちを教会から遠ざけた」と指摘した。 ▽トランプ氏は聖書販売