なぜ日本人は輸入するほどクワガタムシが好きなのか?
これらの結果を受けて、環境省も外来生物法による規制を検討しましたが、すでに大量の個体が輸入されており、飼育者の大半が子どもという状況で、法的な規制をかけることは現実的ではないと判断し、外来生物問題を広く知ってもらうためのきっかけとして、クワガタムシを通じて啓蒙活動を展開するべきとして、小池百合子環境大臣時代より、「クワガタムシ捨てないで、逃がさないでキャンペーン」を宣伝してきました。幸いにして、これまでのところ外国産クワガタムシやその雑種が野外で大繁殖するという事例は国内では報告されておらず、日本のクワガタムシが大きな被害を受けるという事態は回避されたと思われます。
外国産クワガタムシの大量輸入がもたらしたもの
外国産クワガタムシの大量輸入は、日本では外来生物となるリスクが心配されてきましたが、一方で原産地である東南アジア等では、商品のためのクワガタムシの大量捕獲、すなわち乱獲が深刻な環境問題となっていました。特にクワガタムシの原産国の多くは熱帯雨林を擁する開発途上国であり、クワガタムシを売れば日本の円が稼げるという話は現地の人たちにとってはとても魅力的な「ビジネス」だったのです。 東南アジアの一部地域では、毎日のように森に入って、木を削ったり、倒したりしてでも大型のクワガタムシを捕獲するという行為が繰り返され、クワガタムシを売って得た収入だけで家を建てたり、車を買ったりする人まで現れたと言われています。その結果、野生クワガタムシの減少が懸念されるようになり、一部の国では禁輸措置が講じられたほどでした。 クワガタムシの飼育ブームも沈静化したいまでは、そこまでひどい乱獲も少なくなりましたが、日本人が外国産のクワガタムシを輸入して愛でるというブームに湧いた頃、そのブームが引き金となって遠い海の向こうのジャングルでクワガタムシが存亡の危機にあったという事実はあまり多くの人は気付いていません。
日本人の飼育好きはいつから?
ところで日本でのこのクワガタムシ飼育ブームは、海外のメディアでは大変珍しい現象として紹介されていました。あの一流科学雑誌Scienceもこのブームを記事にしたくらいで、取材を受けた私は、このブームがそんなに珍しいことなのか、と、むしろ不思議に思いました。 実は、このクワガタ好きは、日本人独特のもので、ほかの国ではクワガタムシをペットとして飼育するという習慣は全くと言っていいほどないのです。もちろん、標本のコレクターはそれなりに各国に存在します。しかし、そういうコレクターたちの関心は、クワガタムシの、特にオス成虫の形の面白さに集中しているのであって、ただの芋虫である幼虫をわざわざ家の中で飼う、ということには全く関心がありません。 考えてみると、日本におけるこうした小動物の飼育という習慣は、クワガタムシに限ったことではありません。鈴虫を飼育してその音色を楽しんだり、金魚鉢に金魚を入れて楽しんだり、盆栽として樹木をコンパクトな形で末永く楽しんだり……。この独特の飼育芸は、ここ日本という国に特有の文化なのです。これもまた、日本という国の固有性と言えるのでしょう。