阿部サダヲと阿部寛の強烈なインパクトを残す演技が圧巻!予測不能な映像世界で贈るカルトムービー「血を吸う宇宙」
感情表現豊かな演技と親しみやすい笑顔で人気の俳優・阿部サダヲ。舞台を中心に映画やドラマなど数多くの作品で主演を果たしている彼が、脇役としても鮮やかな印象を残したのが2001年公開の映画「血を吸う宇宙」だ。 【写真を見る】阿部サダヲと阿部寛が共演した「血を吸う宇宙」 娘を何者かに誘拐されたという里美(中村愛美)は、警察に駆け込み、娘を救ってくれるよう訴える。彼女の要請を受けて、里美の自宅で誘拐犯からの電話を待つ刑事たちだったが、帰宅した夫・清彦(阿部サダヲ)は、「そもそも娘なんかいない」と言い出す...。 そこへ突如として現れた霊媒師・間宮悦子(由良宜子)の託宣により、ある家に押し入った里美だったが、その家にトイレがないことを発見。"トイレのいらない人間=宇宙人"が娘を誘拐し、人類奴隷化計画を企てていることに気付いてしまった里美。しかし、さらにおぞましい現実が、彼女の身に降りかかる...。 日本中のカルトムービーファンを "発狂"させた「発狂する唇」の佐々木浩久監督と脚本家・高橋洋のコンビが再びタッグを組み、スケールを宇宙規模にパワーアップして放った超ド級の問題作として、公開当時、大きな話題を呼んだ本作。阿部サダヲが演じているのは主人公・里美の夫・清彦。 清彦が登場するまで、物語の登場人物はもちろん、視聴者も、「娘がいて、誘拐犯から電話があった」という里美の言葉を全面的に信用していたが、清彦の「うちは娘なんかいませんよ」という言葉で、すべてがひっくり返る。里美の異常性を強調するかのように、阿部サダヲが演じる清彦は、妻を大声でなじったりすることなく、「またいつものことか」とでも言いたげに、頭を少し傾けて人差し指でポリポリとかく仕草を見せる。そして、里美が差し出した娘の写真を手にした刑事にも「落ち着いて見て下さいよ。それ、人形なんです」と、静かで理知的な声で淡々と言葉を紡ぐ。 里美が清彦を指差して「刑事さん、この人も(誘拐犯の)一味なんです!」と騒ぐ場面でも、諦めの表情を浮かべながら、里美がトラブルを何度も起こしていることを淡々と告げる。しかし、その直後、かつて産婦人科医で妊娠と診断されたものの、誤診だったことがきっかけで里美が次第に壊れていったという過去を刑事に説明している中で感情が高ぶった清彦が、「それ以来、それ以来、里美は、里美は――!」と絶叫するシーンでの叫び声と、絶望の表情は「これぞ阿部サダヲ!」と言いたくなるほど、圧倒的なインパクトを残す。 そして、自宅に土足で上がり込み、霊的逆探知という怪しげな行動を取る霊媒師・間宮悦子には「何やっているんだ、あんた」と冷静かつ常識的なツッコミを入れるといったメリハリのある演技で、清彦がこの物語の中で唯一正気を保っていることを観る者に印象づけていくのだ。 そんな中、中盤で突如登場する謎のエージェント・成本を演じているのが阿部寛だ。ルーシー役の栗林知美と共に、前作「発狂する唇」に続いての佐々木&高橋コンビ作への出演となる阿部寛は、ブラックスーツにサングラスをかけた姿で登場し、里美に「怪しい者じゃない。全然怪しい者じゃない」と怪しさ満点に囁く。里美をとある喫茶店に誘い、仲間のルーシーと共に自己紹介している最中、注文していたフルーツゼリーが届くと、スプーンを使わずにゼリーを吸い込み始める。そんな奇想天外なキャラクターをどこまでも真面目な顔で演じているのだ。そして、「君に聞いてもらいたい話があるんだ」と、成本は青春時代の悲しい出来事を里美に打ち明ける...。 お約束のカンフーアクションに哀愁歌謡ショーなど、予測不能、理解不能な映像世界がさらにパワーアップした本作。常識では計り知れない登場人物ばかりの中で唯一、視聴者が感情移入できる清彦をメリハリのある演技で作り上げた阿部サダヲや、ハイテンションとローテンションを行き交う阿部寛のパワフルかつダイナミックな演技に注目しながら、平成邦画界に爪痕を残したカルトムービーの魅力に触れてみてほしい。 文=中村実香
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