【高校野球ベストシーン’23・秋田編】100球の壁に泣いた秋田商エース右腕、たった1つのチャンスをものにした明桜ナイン
2023年もあとわずか。ことしも高校球界ではさまざまな印象的な出来事があった。都道府県ごとにベストシーンを思い出してみよう。 明桜と秋田商のスタメン 【選手権秋田県大会決勝・明桜vs.秋田商】 100球の壁。投手を語る上で、そんな言葉がある。先発投手の疲れが出始めるひとつの目安とされている数字だ。今年の夏、秋田県の決勝で、その壁に泣いた投手がいた。 秋田商は6回まで2対0と明桜をリードしていた。先発のマウンドに上がった松橋 星羅投手(3年)は、そこまでわずか2安打に抑えていた。6回まで投じた球数は99球。そして運命の7回を迎える。 2者連続で代打を送る明桜の作戦にも動じずに、二ゴロ、三振に打ち取る。勝利を意識し始めてもおかしくない状況で、悪夢は始まる。2死走者なしから、急に球が上ずり始める。直球に抑えがきかない。それまで威力を発揮していた、大きく縦に割れるカーブも抜けてきた。ストライクが入らない。別人のようになった松橋は、3者連続で四球を与えてしまう。 2死満塁。長打が出れば一気に逆転される。一気に窮地に追い込まれた松橋が、カウント2-1から、あきらかに真ん中に置きにいった直球を痛打される。右中間への二塁打。四球で出した3人の走者が一気にホームを駆け抜けた。まさかの逆転…。松橋だけでなく、守っていたナインも、ベンチもうなだれた。 明桜は待っていたチャンスをしっかりものにした。6回までわずか2安打だったが、4回までは毎回四球を選ぶなど、簡単に凡打には終わっていなかった。この静かな作戦がボディーブローのように松橋を苦しめていたに違いない。2死満塁から逆転の3点適時二塁打を放った土田 亮太内野手(3年)は、第1、第2打席で四球を選んでいた。球筋を見極めることができていた。その成果をワンチャンスで生かした。その後、2点を追加した明桜は、この回の5点だけで逆転勝利。甲子園の切符をつかんだのだった。 松橋を責めることはできない。決勝まで勝ち上がってこれたのも、エース右腕なくしてはありえなかった。攻撃側は6回まで毎回走者を出し、得点圏に走者を置いたのは4イニング。8安打を放ったが、それでも2点しか奪えなかった。多くのチャンスを生かしきれなかった代償は大きかった。 秋田商は8安打2得点、明桜はわずか4安打で5得点。100球の壁、四球、集中力、決定力不足など、勝敗を分ける要素がつまった試合だったといえる。