なぜプロ野球のシーズン中に“トレードラッシュ”が起きているのか?
日ハム、横浜DeNA、楽天の3球団は、フロント主導型のチーム経営で短期的な補強だけでなく、中長期的に構想を練り、戦力均衡、年俸のバランスなどを考慮しながら、ドライにトレード戦略を練っている。日ハムの編成担当には、細かいマニュアルがあって、東西の二軍の全試合をチェックし、他球団選手のレポート、評価をパソコン入力で報告するようなスタイルになっている。獲得人数は、オリックスに及ばないが、トレード効用で言えば、日ハムが先頭を走っている。非常にビジネスライクに人を動かしているのだ。 「トレード先の他球団で働かれたら恥ずかしい」などという日本的なトレード抵抗論はない。横浜DeNAも同様で、前GMの高田繁氏は、「ドラフト、外国人、FA、トレード(戦力外選手の獲得を含む)の4本がチーム強化の基本。フロントが、中長期的に戦力を整え、監督は現場の指揮だけに徹するのが、うちの考え」と語っていた。 FA制度が導入されてから大型トレードは減少の傾向にある。実績のあるレギュラークラスにトレードを仕掛けた場合、例えば、糸井や寺原のように数年後にFAで出ていかれてしまうリスクを伴うようになったからだ。昨年オフには、広島の丸佳浩、西武の炭谷銀仁朗の巨人へのFA移籍の人的補償で、長野久義、内海哲也という“大物”が指名され「まるでトレード」と揶揄されたこともある。 一方、巨人が仕掛けてきた積極的なトレード戦略の事情は、少々異なる。「優勝」を宿命づけられ短期的に弱点補強するという現場主導型トレードだ。FAと外国人でオフに大型補強を行い、なおかつ、想定外のアクシデントがシーズン中に起きたときの緊急補強をトレードで補っているが、日ハムで大田が活躍するなど、赤っ恥をかくケースもある。 広島、中日、阪神などはトレードに消極的だ。広島は、生え抜きの育成方針を徹底しており、阪神も、その“カープ方式”にシフトしている。阪神の場合「移籍先で働かれては困る」という人気球団ゆえの足枷もある。中日は、故・星野仙一氏が実質編成権を握っていた監督時代には大型トレードを次々と仕掛けて球界を震撼させた。 だが、編成が現場任せだったことの反動があり、落合博満監督時代には、彼の人脈が限られていたことも手伝ってトレード戦略は停滞した。与田監督の就任でフロントも含め球団体質が変わりつつあり、今回、シーズン中の複数トレードを成立させた。 ここ10年の主なトレード例も、少し表に加えたが、オリックスからヤクルトに移籍してタイトルを獲得した近藤一樹や、日ハムで覚醒した大田、阪神から移籍していきなり2桁勝った西武の榎田など環境を変えて生まれ変わる選手も少なくない。 自ら1990年に阪神とダイエーの間で敢行された4対5大型トレードの一人だったという経験を持つ池田さんが言う。 「トレードは、それまでチームに持たれていた固定観念を外せるのが大きい。成功の条件は、チームに早く溶け込むことと、必ず使ってもらえるのでスタートが肝心。知らないうちに自分に作っていたリミッターを外すことが重要だと思う」 巨人から日ハムに移籍した宇佐見が、お立ち台に上がったが、“リスタート”のドラマはもっとあっていい。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)