里親のもとで愛情深く育てられた少女は、実の母親に引き取られ地獄のような日々に転落。今振り返る里親への思い
「里親制度」をご存知でしょうか。 こども家庭庁のサイトによると、日本では現在、なんらかの理由があって実の親と暮らすことのできない子どもが約4万2千人いるということです。「里親制度」は、さまざまな事情があって家族と離れて暮らす子どもを、一時的に家庭に迎え入れて養育する制度のことです。 【マンガを読む】『私の人生を食べる母』を最初から読む 米田幸代(まいたさちよ)さんも、生まれた直後から里親に育てられた里子のひとり。現在はご自身の経験をもとに、里親制度の講演活動に取り組んでいます。幸代さんは里親からの愛情をうけて育った後、実の母親といっしょに暮らし始めましたが、それは憧れていたものとはかけ離れた生活だったそうです。 「このままでは私の人生はお母さんに食べられてしまう」 そう感じたという幸代さんの実体験をもとに、漫画家のいよかんさんが描いたコミックエッセイ『私の人生を食べる母』がいま注目を集めています。 ■『私の人生を食べる母』あらすじ 産まれてすぐ、祖父母ほど年の離れた夫婦に里子として引き取られた少女・サチヨ。夫婦は深い愛情をもって育ててくれたけれど、家族のなかで自分ひとりだけ苗字が違うこともあり、彼女はずっと疎外感を抱えていました。 そんな小学4年生のある日、実の母親から里親のもとに連絡があります。サチヨと一緒に暮らしたいと突然の申し出があり、「やっと本当の居場所に行ける」「どんな人かな」「私に会ったら喜んでくれるかな」と彼女は母親に会える日を楽しみにします。 しかし、空き家のようなボロボロのアパートで実母と暮らし始めると、その生活は思い描いていたものとはかけ離れていました。喜んでほしくて家事を頑張ったものの、理不尽に怒鳴られて虐げられる日々。 さらに、「生活費がないから金を借りてこい」と近所の人や同級生の親などからお金を借りてくるように命じられ、サチヨは泣きながらあちこちで頭を下げて回るのでした… 「このままでは私の人生はお母さんに食べられてしまう」 そう感じた幸代さんは、里親のところに帰りたいと思うようになっていました…。 この作品について、幸代さんにお話を伺いました。 ■里親の愛情が、生きる上での心の基盤 ──里親さんに育てられているということについて、当時はどのように捉えていましたか?また、どのような気持ちで過ごしていたか、教えてください。 幸代さん:里親さんが説明してくれていたので、そうなんだと納得していました。理解はしていましたが、なんで私は里親さんの家族じゃないんだろうと思っていました。同時に本当の私の家族と住む日を夢みていました。 ──里親さんの家での他の同世代との孫たちとの関係や感情のぶつかり合いについて描かれていますが、当時はどのように感じていましたか? 幸代さん:私はここの子どもじゃないという遠慮のような気持ちもあり、素直に甘える事ができませんでした。お孫さん達には本当のお父さんとお母さんがいるのに、私の里親さんに甘えてくる事に羨ましさを感じると同時にやきもちを焼いていました。 ──実体験を通じて米田さんが感じた、里親制度の課題があれば教えてください。 幸代さん:私の経験から里親制度の課題だと感じた事は、苗字が違う事や他に同じような境遇の子が周りにいないと、孤独感を感じる可能性がある事だと思います。赤ちゃんの頃から、安心出来る人と繋がり、安心できる居場所が持てる経験はとても大切です。その経験がないまま育つと、生きづらさに繋がりやすくなります。 里子は経験を共有する機会が少ないと思うので、子どもの頃から里子同士の交流の機会があると、救われる子もいると思います。子どもが生きやすくなる為に1番大切な事は、周りの理解ある環境だと思います。子どもに隠すのではなく理解出来るようにわかりやすく説明し、子どもを中心に考えてあげる事がとても大切だと考えています。 ──里親さんのもとで育ったという経験は、その後の人生にどのような影響がありましたか? 幸代さん:20歳頃までの心情としては里親さんの所にいた経験は私にとって、自分は本当の家族じゃないという孤独感や疎外感があり、良い経験として捉えていませんでした。ですが20歳をすぎた頃から、血の繋がりのない私を家族のように愛してくれていた事に気がつきました。里親さんの愛情が私の基盤になっています。 * * * 里子経験者として、里親制度について講演活動をする幸代さん。里親と過ごした幼い頃に注いでもらった愛情が、今の彼女の人生を支えています。幸代さんの経験は、家族関係において血の繋がりよりも大切なものがあることを、私たちに教えてくれます。 取材=ツルムラサキ/文=レタスユキ