スタートアップは「米がメジャーリーグ、日本は高校野球」…それでもこの状況が“ポジティブ”である理由
4月よりスタートした『BooSTAR -スタートアップ応援します-』。 日本経済の起爆剤として期待されるスタートアップ企業に注目、スタートアップ界で話題のゲストを交えて、企業にまつわる最新事情やハウツーを伝えていくスタートアップ応援プログラムだ。 日本の、世界の未来を創造するこのビジネストレンド番組の解説として出演する、早稲田大学大学院文学経営管理研究科教授であり、長年日本のスタートアップについての研究を続けてきた経営学者・入山章栄さんに、スタートアップが秘める大きな可能性について聞いた。 ――いま日本のスタートアップはどのような状況にあるのでしょうか? 「野球でたとえるなら、アメリカがメジャーリーグで日本は高校野球の甲子園大会という感じです。こういうと、『そんなに差があるのか』と思う人もいるかもしれませんが、僕はむしろ差が縮まったというポジティブな意味合いで言っています。 だって甲子園大会を開催できるレベルまで来たってことは、大谷翔平みたいな選手が生まれる可能性があるわけじゃないですか。アメリカだってここまでになるのってすごく時間かかっている。日本はスタートアップに本格的に取り組み始めてせいぜい10数年。だから差があって当然なんです。 でもアメリカ以外の国で比較すると、ヨーロッパも、それから東南アジアもまだまだ。そういう意味では日本も焦る必要はないし、これからまだまだ伸びる。ビジネス界の大谷翔平になりうる可能性を持った若者もどんどん登場しています」
――これまで日本から世界的なスタートアップが登場してきませんでした。その状況は変わりつつあるのでしょうか? 「日本でも戦後にトヨタやソニー、ホンダといった世界に知られる企業が誕生した歴史があります。彼らも最初はスタートアップだった。では、それがなぜ現在まで続いてこなかったかというと、私は終身雇用制度が大きいのではないかと考えています。 かつて日本の経済を支えたのは製造業で、製造業を続けるのに最適な雇用システムが終身雇用だった。これが日本社会とマッチしたことで、リスクをとってまでチャレンジしないというマインドセットができてしまったのではないかと考えています」 ――そのマインドセットに変化が生まれてきた? 「コロナ禍が転換点になりました。日本人はもともと危機感が薄かった。長い間、いわゆる“ゆでガエル”の状態だったわけです。コロナ禍という世界的な危機が訪れたことで、現在が不確実性の時代だということを理解し、ようやく危機感を持つようになった。 しかも従来の常識が通用しない、正解のない時代を乗り切る手助けとなったのがZoomなどのデジタルテクノロジーだった。こういった変化を受け入れることで多くの日本人のマインドセットが変わったと思っています。 実際、コロナ以降大企業のトップのマインドが変化し、スタートアップに関心、理解を示す方も増えています。ピンチはチャンス。若者たちはそのことにとっくに気がついていると思います」 ――スタートアップが成功するために欠かせないのは? 「いちばん大切なのは情熱、パッションです。新しい事業に失敗はつきもの。一度コケても次、また次と突き進んでいくために情熱は欠かせません。日本人はどうしても失敗を恐れますよね。 失敗した人間は敗者であり、もう一生這い上がれないみたいな空気があった。でもアメリカのすごいところは、会社を3つ4つ潰しても平気なところ。お前、3つ会社を潰したのか、やるじゃんみたいな(笑)。 そういうチャレンジを続ける人間をむしろ評価する社会で、チャンスが次々とやってくる。日本でも少しずつそういう風潮は生まれてきているように思います」