【解説】‘トクリュウ’も手を染めるサイバー犯罪 フィッシング・カードの不正利用などに巻き込まれないためには
犯罪情報は公表せず共有
JC3では各企業で起きているサイバー犯罪に関する情報交換が行われているが、あえて公表することを前提にしていないため、詳細な被害情報が共有されて対策に結びついているという。 また警察から派遣されたサイバー捜査官がネット上を監視して詐欺サイトを特定したり、企業からの相談を受けて警察が捜査に乗り出すこともある。 フィッシングなどによるインターネットバンキングの不正送金は、去年は約87億円と前年の6倍近くに急増した。 フィシングの文面も以前は日本語の使い方が不自然だったり、使われていない漢字があるなど偽サイトだと気づくことがあったが、現在は本物のサイトと見分けるのは銀行員でも難しいという。
リアルタイムフィッシングが急増 入力したらアウト
中でも急増しているのが「リアルタイムフィッシング」で、被害者がフィッシングサイトで入力を始めると、犯人はその情報をリアルタイムで見ながら金融機関などの本物のサイトに打ち込んでいく。 ログインIDやパスワード入力のあとに求められる追加認証でも、被害者が入力した秘密の質問などの回答を犯人も打ち込んで、ワンタイムパスワードなどを盗み出す。被害者が偽サイトと気づく前に金を引き出されたり、不正利用が行われてしまう。 櫻澤氏「どんなに追加認証をかけてセキュリティを強化しても、犯人側は突破できてしまいます。入力したらアウトです」 プロバイダーや携帯電話事業者などが怪しいメールに対して、セキュリティソフトで〔SPAM〕表示をして注意喚起する場合もあるが、セキュリティをすり抜けたり、SMSで送られてくるケースもある。
トクリュウのサイバー犯罪 指示役を逮捕
警察庁のサイバー特捜部や埼玉県警などは他人のクレジットカード情報を使って、メルカリやヤフオクで商品を売買する手口で、1億円以上の収益をあげていた「トクリュウ」グループを摘発し、送金先の暗号資産の捜査で指示役を逮捕した。 JC3ではフィッシングなど金融犯罪のほか、クレジットカード犯罪や情報流出の対策にもあたっているが、ショッピングサイトなどでのクレジットカードの不正利用の被害は去年、過去最多の約540億円に上った。このうち約500億円がクレジットカードの偽造ではなくカード情報の盗用によるもので、ネット上ではフィッシングなどで盗まれたクレジットカードの番号や名前、有効期限、セキュリティコードなどの情報が売買されている。 だまし取られた金がATMで引き出されると、防犯カメラなどから犯行グループの受け子が逮捕されることもあったが、最近は暗号資産の口座に送金されることで追跡が難しくなっている。 また犯行グループは指示役のほか偽サイトの作成、不正口座の開設、金の回収など役割分担をしていて、誰かが逮捕されても線でつながらず、グループ全体の摘発には結びつかないことが多い。また外国に拠点があると解明はさらに難しくなる。 なぜここまでサイバー犯罪が急増しているのか、「儲かるから、捕まらないからです」と櫻澤氏は指摘する。 強盗や金の引き出しはなく、ネット上で完結するサイバー犯罪は「トクリュウ」など犯行グループにとっては捜査の手が及びにくく、今後も警戒が必要だ。 詐欺電話や詐欺SMSをデータベース化して、NTTドコモなど携帯電話事業者と提携し、迷惑電話・SMSの防止サービスを提供している「トビラシステムズ」によると、スミッシングと呼ばれるSMSによるフィッシング被害は、2023年は前年比で1.7倍、2年前と比べると3.2倍になっていて、宅配業者や金融機関、決済サービスを装うケースが多くなっている。 被害は高齢者だけでなく、インターネットを使い慣れている若者らが逆に狙われることも多く、引っ越しや就職、進学などが多い春や秋など新生活シーズンでは手続きや買い物などが増えることからフィッシングへの警戒がより必要だと指摘する。 また名前やID、パスワードだけでなく、本人確認と称して運転免許証やマイナンバーカード、パスポートなどのアップロードを求められて、身分証明書の偽造や携帯電話のSIMカード再発行よる電話やSMSの乗っ取りなどの危険性もある。
【関連記事】
- 【解説】他人名義のクレカ不正使用“闇バイト”指示役の26歳男逮捕 メルカリで“資金洗浄”か サイバー捜査で“匿名性高い”暗号資産の追跡可能に
- 松本サリン事件から30年「みんな敵に見えた」「オウムも警察もメディアも同罪」疑惑を持たれた河野義行氏の苦悩とメディアの責任
- “憎悪型ストーカー”怒りや恨みは5年続くことも…「SNSなど見ている可能性。いつ発火してもおかしくない」 新宿タワマン殺人事件はなぜ起きたのか
- 警視庁150年事件ファイル「遠隔操作ウイルス事件」誤認逮捕から執念の逮捕 FBIを動かした交渉の舞台裏
- 怒りあらわ「許せない…」市長のLINEが乗っ取られ…知人女性が詐欺被害 “犯人とのやりとり”一部始終を語る