校舎の片隅に眠っていた最高級ピアノ“エラール” 2年半の修復を終えふるさとに帰還!美しい音色復活のウラに昭和の人々の熱い思い
100年ほど前の木材からなる鍵盤 当時のまま使用
修復は、群馬・埼玉・東京・京都で行われた。 ボディと部品をバラバラにすることから始まり、弦はすべて張り直しに。ハンマーのフェルトも新調された。
一方で、驚くべきは鍵盤の品質の高さだ。100年ほど前の良質な木材からなる鍵盤は今も一切の狂いがなく、全て当時のままだという。
輝き取り戻したエラール お披露目へ
2年半の修復期間を経て、コンサート前夜に三条市の「まちやま」に収められたエラール。 沈んでいた鍵盤は美しく整い、錆びた弦は光輝いている。 校舎の片隅で眠っていたエラールは、製造された93年前の姿を取り戻した。
燕三条エラール推進委員会の永桶理事長は、市民へのお披露目を前に胸を高鳴らせていた。 「エラールの復活は言葉では表せない喜びがある。いよいよあす、一般の方たちに聞いていただけるという感動がすでに私の心の中に芽生えている。素晴らしい音楽を届けられる予感がしている」
「涙が出た」卒業生の前でエラール復活
そして、迎えた2023年11月23日、エラールの復活コンサート。 93年前に誕生した最高級ピアノの響きは、ピアニスト・三好優美子さんの演奏で市民の耳に届けられた。 デュランの「ワルツ第1番」、次いで、ベートーベン作曲「ピアノソナタ第23番《熱情》」。 エラールは、一台にオーケストラが凝縮されたようなピアノだと言われている。 永桶理事長は「低い音はコントラバスの塊のよう。高い音はキラキラ輝く金平糖のような…小鳥がさえずるような、素晴らしい音色を持ち合わせたピアノになって帰ってきた」と、エラールの音色を解説した。
このコンサートには、三条高等女学校の卒業生も多く訪れた。 90歳の高橋時子さんは、在校時、女学校の教師の指導を受けて、このエラールでピアノを習得し、授業の中で伴奏を担当していたという。「エラールを見て涙が出た。女学校時代の思い出が深いピアノ」
エラールを調達した大井長一さんの孫・山崎さんの姿もあった。 鍵盤に触れた山崎さんは、「小公女がお嬢様になって帰ってきたよう」と、その修復した姿を表現。 そして、「みんなの絆で今のエラールがあるから、再生に携わったすべての人に感謝している。おじいちゃんが入れてくれたピアノがこれからの三条を栄えさせてくれたらいいと思う」と、エラールの復活に祖父への思いを重ねた。
エラールは一般開放へ「大切な友達のような存在に」
エラールは今後、「まちやま」に常設され、ピアニストを招いたコンサートで演奏されるだけではなく、一般にも開放される。 永桶理事長は、これからのエラールの展望を語った。「コンサートと一般開放の両輪で活躍できたらいい。音楽というのは目に見えないし、残すこともできないが、心のよりどころになるもの。多くの人がエラールに関わって、もう1人、大切な友達ができたような、そんな存在になっていくといいなと思っている」 昭和から令和へ…。長い眠りから覚めたエラールは、これからを生きる人々の心に寄り添い続ける。