【コラム】苦しんで得た勝ち点『3』の意味 U23日本代表は貴重な経験を糧にパリ五輪出場権獲得へ動き出した | AFC U23アジアカップ
【サッカーU23日本代表 コラム】8大会連続のオリンピック出場を目指してAFC U23アジアカップ2024の戦いに臨んでいるU23日本代表が、4月16日にU23中国代表と対戦した。 前半8分にMF松木玖生の見事なゴールが決まった時、誰がこんな展開になると想像しただろうか。 パリオリンピックのアジア予選を兼ねたU23アジアカップの初戦、若き日本代表はグループステージ第1節でU23中国代表と相対した。今後、U23UAE代表、U23韓国代表と強敵が続くことを考えれば、ここは何としても勝利が欲しい一戦。ピッチ環境や気候、緊張感など、初戦ならではの難しさはあれど、チームとして最初の難関を突破することが求められていた。 果たして、U23日本代表は前半8分に幸先良く先制点を奪取。そこまでの一方的な状況を鑑みれば、ここからさらに試合を優位に進めるだろうと予想された。 だが、サッカーは何が起こるか分からない。17分にDF西尾隆矢が不必要なプレーでビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の末に一発退場。あらゆる想定をしていたとはいえ、早い時間帯に数的不利を強いられる状況となったことでチーム全体に動揺が走ったのは明らかだった。 それでも、ピッチ内の選手たちで話し合い、すぐにポジションを修正する状況に移行できたのはプラスだ。「交代までの間、あの場面でCBができるのは僕か(内野)貴史くんだったので、貴史くんも少しやろうとしていましたけど、自分が入った方が絶対に良いと思って話し合いました。そういう対応はスムーズにできたのかなと思います」とはDF関根大輝の言葉。大岩剛監督が22分に選手交代を決断するまで、守備陣全体で安定感を継続させることができた冷静さはポジティブな要素と言える。 しかし、そこからの約30分間は、無失点を継続しながらも“U23中国代表のクオリティに助けられた”部分が往々にしてあった。ずるずるとラインが下がり、ボールホルダーに対するプレッシャーが甘くなったところで、フリーでさまざまなプレーの選択を許してしまう。結局、1-0のまま前半を折り返すことになったが、あの時間帯に失点しなかったのは、シュートがバーに当たったシーンを含めて運に恵まれたと言っていいだろう。 後半は最初のピンチを防いで以降、ハーフタイムに施した「ラインを上げることでプレッシャーにいく距離を縮めるアプローチ」が少しずつ機能。加えて、相手が時間経過とともに疲労がたまり、プレーの一つひとつの精度が落ちたことでミスも増え、そのまま逃げ切ることに成功した。 苦しい試合で得た勝ち点『3』の意味は大きい。パリ五輪世代のU23日本代表にとって、ここで負ければ世代別代表のチームは解散となる。そういった状況であることを考えると、“負けて学んだ”のではもう遅いのだ。だからこそ、この試合の収穫は“勝ったこと”。課題は次に繋げていけばいい。 試合前日の段階で「自分たちのやりたいサッカーはあるけど、やりたいようにできなくなったり、変えないといけなくなった時に勇気を持ってプレーできるかが大事」と語っていたDF内野貴史は、改めてこの試合に勝利した意味を口にした。 「本当に初戦でこういう苦しい思いをした、できたということは、今後のみんなの気も引き締まるし、チームとして本当にもっとやっていかないといけないという気持ちがより増すのかなと。これから次第ですけど、本当にこの経験があって良かったと思えるような大会にしていかないといけないと思います」 これ以上に苦しい展開が今後の試合で待っているかは分からない。ただ、もう一度、こういった事態が起きた時に、「今回よりうまく対応できる」という自信はプラスに働くはずだ。 大手を振って喜べるような内容ではなかった。それでも、パリ五輪の出場権を獲得するため、アジアを制するために大きな一歩を踏み出したことは間違いない。この経験を糧に次なる試合へ。大会を通してチーム全体がさらにレベルアップしていく姿を楽しみにしたい。 文・林遼平 埼玉県出身の1987年生まれ。東日本大震災を機に「あとで後悔するならやりたいことはやっておこう」と憧れだったロンドンへ語学留学。2012年のロンドン五輪を現地で観戦したことで、よりスポーツの奥深さにハマることになった。帰国後、フリーランスに転身。サッカー専門新聞「エルゴラッソ」の番記者を経て、現在は様々な媒体で現場の今を伝えている。
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