『23区格差』著者池田氏に聞く 待機児童問題は施設を増やしても解決しない
東京は幼い子どもがどんどん増えている
池田さんが2000年から2010年にかけての国勢調査のデータをみたところ、15歳未満の子ども人口増加率が、全国9.0%減に対し、東京都は全国最高の4.0%増、東京23区5.1%増となり、2位の神奈川県0.3%増と比べて際立っています。全国と比べても特に幼い子どもの割合はむしろ高くなっています(グラフ1)。 ── 東京は0歳児がどんどん増えているという事実があります。毎年保育所の定員を増やして瞬間的に解消しても量的解消だけではいたちごっこ。つまり、この問題は構造的に変えなくては解決できないのですが、3候補が言うのは保育所の数を増やしていくだけの考え方。これではいつまでたっても解消できないでしょう。 ── 保育問題に対処するには、まず女性の働き方から対処すべきです。子育て中の女性はフルにバリバリと働きたいという人もいれば、子育て期間中はもっとゆるい働き方をしたいという人もいます。そうしたそれぞれの女性に対応できるよう、子育て中は二人で仕事を分けあうワークシェアを企業がもっとすすめるべきだと思います。資格を持っていても自分自身が子育て中でフルに働けない保育士の活用でもこのワークシェアが生かされるでしょう。また地域でお金を回す仕組み、コミュニティビジネスを取り入れるといいと思います。保育ママなどコミュニティビジネスのたねはあちこちにあります。
子育てへの経済支援では子どもは増えない
池田さんの調査では、2010年の合計特殊出生率は全国1.39に対し、東京23区1.08と低くなっています。これは25~44歳女性未婚率が全国32.3%に対し、東京23区42.7%と高いことが一番の原因とみています。実際に23区内の未婚率と出生率は高く相関しています(グラフ2)。 ── よく若い人が結婚しない理由で、収入に自信がないということを言います。しかし、全国で最も出生率が高いのは沖縄1.95ですが、沖縄の有効求人倍率も所得も低い。沖縄の人が言うのは地域が子供を育てるということです。最も賛成できないのが、結婚や出産に自治体が助成金・補助金を出すことです。いくらそれで増えたとしても、違う自治体へ引っ越してしまうかもしれない。社会移動がある間は無意味なことです。 実際、池田さんが調べたところ、23区間で出生率を比べると「保育施設充足率」「待機児童率」「所得水準」との相関はみられませんでした。一方で、三世代同居比率が高いと出生率が高く、ひとり暮らし世帯・高齢者ひとり暮らし世帯が高ければ、出生率は低いという関係がはっきりみられました(表1)。 ── 待機児童は量的解消で解決できない面として、保育所をつくるとますます子どもが集まってしまうという問題点があります。しかし、お金のかからない方法で子どもを育てていくことができます。それは地域で子どもをみていくという仕組みです。例えば品川区は朝8時と夕方3時の登下校時間にまちの人が外へ出る「83(はちさん)運動」など地域全体で見守りをしようというシステムをつくり、子どもが増えています。実はまったく関係ないようで、高齢者をひとり暮らしさせないまちが、実は子供が多いということがわかったことからも、子どもを安心して育てることができる家族・まちの力をつくっていく必要があります。 ── 女性が自己実現を目指して働き始めた中、保育所をかつての「福祉」という概念で考えることが出来なくなったということがこの待機児童の問題の本質でしょう。企業の融通の利く働き方を含め、大きく構造を変えることではじめて解決する問題で、今までの常識では通用しません。既に表面的な常識がいろいろなところで通用しなくなった。典型が東京なのです。