井上陽水『少年時代』は記録以上に記憶に残る名作!!【後編】
水原:川原さんは陽水さんと、トライセラトップスの和田唱さんの家庭教師をされたことがあるそうですね。 川原:唱くんがまだ中学生の頃で、「息子がビートルズを好きだから、演奏を教えてあげてほしい」と、お父さんの和田誠さんから陽水さんに連絡があって。陽水さんがギターで僕がピアノでね。そうしたら陽水さんが「平野レミさんの手料理も食べられるらしい」と言って。レミさんの料理を直接頂く機会ってないじゃないですか。なので二人で料理も楽しみにして、おじゃましました(笑)。陽水さんと自分って、そんなふうに指向も似ているんです。二人共、料理研究家の土井善晴さんのファンでもあるし。料理と音楽ってすごく似ている。土井さんのレシピも、自分でも出来そうでいて、作ってみると奥が深い。ビートルズも簡単に演奏できそうな気がして、その気にさせてくれるでしょ。陽水さんとは映画の趣味も似ていて、ビリー・ワイルダーの『アパートの鍵貸します』(1960年)や『七年目の浮気』(1955年)とかね。 水原:それで陽水さんは、土井さんとも親交があるんですね。 川原:陽水さんのお嬢さんの依布サラサさんが、空港で見かけた土井さんに「家族全員がファンなんです」と声をかけてね。陽水さんは先入観がないから、筒美京平さんとも仲が良かった。最初は京平さんの方が緊張していたけど(笑)。芸術家と職業作曲家、ボブ・ディランとバート・バカラックが食事するみたいなものですから、京平さんとしては、どんな質問されるんだろうと思ったのかなぁ。そこからNHKの連続テレビ小説の主題歌になった『カナディアン アコーデオン』が生まれて。 水原:陽水さんと京平さんのコラボも驚きました。京平さんの曲はコマーシャル的なインパクトもすごいですから。そういえば陽水さんのCMソングって、特定のフレーズが盛り込まれているようなイメージが全くないですが。 川原:それは、CMソングに対してそういう前提でいる我々の方がおかしいのかもしれないし(笑)。陽水さんのすごいところは、色々な調整事項も多いこの世界にあって、本当の意味での芸術家であり続けていること。提供曲も、作品が出来た後で「この曲、もしかしたらあの人が歌ったら面白いかも」と思ったら、自らプロモーションする。明菜さんの『飾りじゃないのよ涙は』や荻野目洋子さんの『ギャラリー』も、陽水さんが自分でプレゼンしたんですよ。 水原:そうだったんですね。斉藤由貴さんが歌った『夢の中へ』も大ヒットしました。 川原:アーティストだけでなく、スタッフにも陽水さんのファンはたくさんいますから。いい歌はそうやって歌い継がれていくんですね。 ●井上陽水/シンガーソングライター。1969年に「アンドレ・カンドレ」としてデビューし、1971年に井上陽水として再デビュー。アルバム『氷の世界』(1973年)や『9.5カラット』(1984年)がミリオンセラーに。中森明菜、荻野目洋子、PUFFYなど他アーティストへの提供曲も大ヒット。今なお多くのアーティストがリスペクトする。 ●川原伸司/音楽プロデューサー、作曲家。日大芸術学部を卒業後ビクター入社、後にソニー・ミュージックエンタテインメントへ。ピンク・レディー、杉真理、松本伊代、The Good-Byeらの制作現場を経験しつつ、井上陽水、筒美京平、大滝詠一、松本隆らと交流。大滝詠一、中森明菜、TOKIO、ダウンタウン等をプロデュースし、松田聖子や森進一の楽曲制作も。『ジョージ・マーティンになりたくて~プロデューサー川原伸司、素顔の仕事録~』(シンコーミュージック)が絶賛発売中! Photo(record)&Text_Kuuki Mizuhara
GINZA