F1の新規ファンが増えない根本理由 75周年を機に開かれる未来への道筋とは?
感情移入できない理由
他にも「レースが複雑」という要因がある。例えば、アンダーカット(ピットストップを早めることで、他のドライバーよりも先にコースに戻り、結果的に順位を上げる戦略)をする場合、 ・フューエルエフェクト(燃料の量や重さが走行性能に与える影響) ・コース特性 ・グリッドポジション を重視するかどうか、さらにはタイヤ特性などを考慮しなければならない。しかし、これを理解するのは、F1が好きな人でも簡単ではない。野球初心者がタッチプレーとフォースプレーの違いを理解するのが難しいのと同じように、モータースポーツのレースの難しさはそれ以上に複雑だ。 また、追い越しを増加させるためのDRS(ドラッグ・リダクション・システム)も、素人には理解しづらい。F1側がDRSを導入した理由は理解できるが、発動するには特定の地点で前の車とのタイム差が1秒以内でなければならない。このような面倒なルールが必要な理由も疑問だ。もしあなたが、DRSを知らない友人にレースの展開が変わる生中継のなかで簡潔に説明できる自信があるだろうか。つまり、 ・実感がともなわない ・マニアがいる ・レースが複雑 という三重のハードルがあるため、F1を楽しむには少し難しい面があるのだ。
VR観戦が開く新時代
今後の方策として考えられるのは、データを今まで以上にオープンにすることだ。このデータを無料で提供すれば、F1をより理解しやすくなり、新しいファンにも優しい。また、マニアもレースの背景をより深く知ることができる。 それに加えて、F1の関係者とメディアがわかりやすく説明する努力も欠かせない。特にSNSの活用が重要だ。若い世代はテレビを見る時間が短く、SNSを利用する時間が長いため、これを生かすことが必要だからだ。 さらに、VRやARを使ったバーチャル観戦の可能性を探るのも面白い。F1のチケットが高騰しているなかで、VRを活用すれば渡航費用を抑えることができる。例えば、北海道にいながら鈴鹿のメインスタンドにいるかのように観戦できる。2024年のF1には約23万人が来場したが、VRを使えば物理的な収容人数の制限を超えることができ、サーキット側も収入が増えるというメリットがある。 筆者(武田信晃、ジャーナリスト)はスポーツではないが、VRコンサートの取材と体験をしたことがある。その没入感は驚くべきもので、視点を切り替えることもできるため、観戦がより楽しくなる。現在、VRゴーグルは高価だが、今後価格が下がれば、間違いなく参加者を増やす要因となるだろう。 また、DRSに関連して、追い抜きで順位を戻す行為が発生することがある。知らない人が見ると不思議に思うだろう。こうした状況はシンプルな方が理解されやすいため、オーバーテイクポイントでのコースの外をグラベル(舗装されていないコース)にするべきだ。現在は舗装路が多いため、ドライバーは 「最後の最後は舗装路を使ってコースをショートカットし、相手の前に出たら順位を譲ればいい」 という考えを持つ。それがなければ、グラベルにはまって自分にダメージを受けることになるので、今のような動きにはならない。 コース外の舗装路は安全性に寄与し、広告スペースにもなるため、サーキット側が舗装路にしている理由は理解できる。しかし、ミスをすればグラベルにはまるという報いを受ける方が、ファンから見ればシンプルで受け入れやすいはずだ。商業主義とのバランスが求められている。