大阪都構想は消えても政令都市の「二重行政」は消えない
「大阪都構想」の賛否を問う住民投票は、「賛成」69万4844票、「反対」70万5585票という僅差で反対が上回り、大阪市は存続することが決まりました。橋下徹大阪市長が5年にわたって実現を目指した都構想は廃案となったのです。この住民投票の結果をどう見るか、地方自治に詳しいジャーナリストの相川俊英氏に寄稿してもらいました。 【図】「大阪都構想」そもそもの狙いは何だった?
全国の政令都市の共通課題
大阪市民はさぞかし悩み、苦しみ、迷ったと思う。それでも投票率は68%近くに達し、有権者の3人に2人が投票場に足を運んだ。いままで自分たちのまちの将来をこれほどまで真剣に考えたことはなかったのではないか。この1点だけでも住民投票を実施した意義は十分にあったと見るべきだ。 住民投票の結果、大阪市を解体する「大阪都構想」は僅差で退けられた。まさに市を二分する大接戦だった。都構想に反対してきた人たちはほっと一安心といったところだろうが、都構想を葬り去ってもそれで大阪市の課題が解消するわけではない。別の処方箋は示されておらず、「ノー」で終わったに過ぎない。反対派は「都構想が実現したら、住民サービスが低下する」と批判してきたが、大阪市が政令指定市として存続すれば行政サービスも維持されると考えるのも、早計だ。 そもそも都構想は衰退する大阪を再生させる処方箋として打ち出された。大阪市と大阪府による「二重・二元行政」の弊害が、地域の地盤沈下を生んでいる要因の一つと考え、その解消を狙ったものだ。 大阪に限らず政令市と広域行政を行う道府県の関係はいずこもぎくしゃくしている。政令指定市は道府県並みの権限と業務をもちながら、それに応じた財源措置がなされていない。道府県との不明確な役割分担もあり、非効率な二重行政の解消などが全国の指定都市の共通課題だ。
小さすぎる府と大きすぎる市
中でも大阪は地域の特殊要因も加わり、府と市は険悪な関係となっていた。狭いエリアに広域自治体としては小さすぎる大阪府があり、その中心部に基礎自治体としては大きすぎる大阪市が存在する。インフラ整備や開発、現業部門など予算の支出をともなう面で連携がとれず、的確な地域経営がなされずにいた。その挙句に財政状況は悪化し、地域経済の低迷だ。 さらに、人口約270万人の大阪市は大きすぎて、住民と市役所の間に大きな隔たりが生れていた。24の行政区があるものの権限や予算も少ない一部署に過ぎず、本庁中央集権体制となっていた。これもまた他の政令指定都市が共通して抱える問題だ。行政が住民から遠ざかってしまっているのである。 こうした課題の解決のために「大阪維新の会」が打ち出したのが、大阪市を5つの特別区に解体し、大阪府に吸収させる「都構想」だった。分権化と集権化(一元化)、それに民営化の3点セットである。5つの特別区は身近な行政サービスを担当し、公選区長と公選議員をもつというものだった。 実は、大阪では行政の枠組みを再編しようという構想は以前からあった。府と市が一体化する「大阪新都構想」や大阪市が府から独立する「スーパー政令市制度」などだ(現在、指定都市市長会は府県から独立する「特別自治市」を提言している)。 こうした構想はいずれも提言や意見にとどまり、具体化に向けた政治的な動きとはならなかった。どんな案を掲げても必ず反対の声が上がり、大変なことになることが明らかだったからだ。どの政党・政治家も「二重・二元行政」を打破しなければと思いながらも沈黙しつづけていたのである。敵をつくることを意に介さない橋下市長だからこそ、都構想という処方箋を示して行動したといえる。