国際NGO職員が国会前デモに参加して感じた「違和感」とは
「政府と話したら負け」という日本の市民運動
欧米の国際NGOによる社会変革運動と、日本の「市民運動」の大きな違いは、「政府と対話すること」に対する態度の違いだと鈴木さんは分析する。欧米の国際NGOは「何十年もアフリカを支援して貧困が劇的に改善されない状況で、問題を解決するには、先進国政府の政策や国際ルールなどの構造を変えなくてはならないという姿勢に変化してきた」という。 なぜ、日本の市民活動家は対話を拒むのか。鈴木さんは、日本の市民活動家の多くが政府や政治が嫌いなアナーキスト(無政府主義者)で、政策決定者に働きかけるのではなく、例えば政府が関与しない「寄付運動」などの活動に邁進してしまいがちだと指摘する。「政府の人と話すことすら、悪徳なのではないか、交渉したら負けなのではないか、と思っている。ですが、政府と市民の間に立って双方の利益を調整し、交渉を進めることこそ、社会変革のために必要なことです」 鈴木さんは原発の問題や安保関連法案に対する抗議活動に参加すること自体は、肯定的に評価する。「それでも私はSEALDsをはじめとして、行動することには肯定的です。『怖い』という感情を感じて行動するのは、それでよいと思います。どんなことであれ、意見を言うことはよいことです。私は『怖い』と思わせた側に、説明する責任があると考えています。その意味で、今回の安倍政権は説明責任を果たしていません。デモが起きるのも当然です」
「人権が普遍的であれば、中国大使館前にも行くべきだ」
一方で、安倍首相への嫌悪・憎悪の気持ちを隠さない抗議の姿勢は、対話につながらないと疑問を呈す。「異なる意見に対しては、対話をする前に遮断する、ブロックする。そのような姿勢は、社会の分断が進むだけではないでしょうか。アメリカではもっと異なる意見を持つ人同士が議論する。市民レベルの対話を進めるべきです」 鈴木さんは、安保関連法に反対する人が「人権や民主主義の侵害」を主張するなら、シリアや中国で起きている人権侵害の問題に対しても同じように活動すべきなのではないかと問いかける。「もし、一部の陰謀論好きの人が言うように、安保法案が中国の不利益になるから反対しているのではないのならば、中国大使館前にも抗議に行くべきなのです。人権が普遍的であれば、人権侵害の主体者がどの色であろうと行動すべきです」 (中野宏一/THE EAST TIMES)