明らかな精神障害から誰にでも起き得る症状まで、304に及ぶ心の問題を精神科医が簡潔に解説
昔に比べて精神的な病気に対する認識が広まってきたとはいえ、自分とは異なる人を正しく理解するのはなかなか難しいものです。たとえば電車の中で車内放送の真似を繰り返す人がいたら、不可解に思う人も少なくないはず。しかし、「エコラリア」(反響言語/聞いた言葉を繰り返す)という自閉スペクトラム症の症状を知っていたら、その人に対する印象は異なるのではないでしょうか。もしくは自分自身が何か精神的な症状を抱えていて、周囲の人の理解を得られず辛く悲しい思いをしたことがある人もいるでしょう。 「世の中の人たちが、さまざまな精神症状について理解を深めてくれたら、不毛な応酬は減っていくだろう。一人ひとりが、周囲によくあるいろいろな精神症状について正しく理解し、受け入れる社会をつくらなければいけない」との思いをきっかけに作られたのが、精神科医の松崎朝樹氏が著した『1分で精神症状が学べる本304』です。同書では、明らかな精神障害によるものから、病気とまでは言えないけれど誰にでも起き得るものまで、304もの精神症状について解説されています。現代の精神医療の臨床現場における診断の指標となる「DSM-5(精神障害の診断と統計マニュアル)」に基づきながら、一つひとつが1分以内で読めるような簡潔な内容になっているのが特徴です。 同書では、気分障害、不安・強迫、解離、トラウマ・ストレス、愛着障害、依存・嗜癖、発達障害など全部で20のカテゴリに分けられています。たとえば「不安・強迫」の症状ひとつをとっても、執拗に手などを洗う「洗浄強迫」や、物事の確認を何度もおこなう「確認強迫」、物を捨てられずに過剰にためこむ「ためこみ症」、自分の皮膚をむしってしまう「皮膚むしり症」、急な不安と息苦しさに襲われる「パニック発作」など多岐にわたることがわかります。 また、精神科の現場ではあまり扱われることはないそうですが、よく耳にするようになった「HSP」「インポスター症候群」「蛙化現象」といった症状まで収録されているのも注目したい点です。これらはなまじ世の中で拡散されているがゆえに曖昧な解釈で使われていることもあり、「正確な意味を人々と共有しておくことは、いらぬ誤解や葛藤を招かないようにするためにも非常に重要だと考える」(同書より)と松崎氏は記します。 世の中のあらゆる精神症状について網羅したガイドブックのような一冊であるため、これをどのように活用するかは読む人次第だと言えます。自身がなんとなく抱えている心の不調に「名前」がつくことで、より心穏やかに過ごせるようになるかもしれないし、周囲の人たちの症状を理解することで、偏見が減ることにつながるかもしれません。もちろん素人判断で「〇〇病だ」と決めつけることはしてはいけませんが、これだけ心の病が身近にある現代において、さまざまな精神症状を幅広く知ることができる書籍として、役立つ部分があるはずです。 [文・鷺ノ宮やよい]