最初の転機は25歳。結婚し、別人になれた気がした。1歳上の夫はいつも心地よい距離感でいてくれる。4児に恵まれ、子育てに自分の存在意義を見いだし、怖かった人付き合いも「子どものため」と頑張れた。 　過去を客観視できたのは42歳の時だ。手にした本に児童虐待に関する記述があった。それまでうつ病の原因と兄が結び付かず、「私の心の持ちようが悪いのだ」と自分を責めていた。本を読み、性虐待により心に傷を負ったと初めて認識した。怒りが込み上げ、兄にされたことをノートに書き殴った。泣き叫び、抑えていた感情が戻ってきた。そして高校以来、遠ざかっていた心療内科を受診。「闇は光でしか消せない」という医師の言葉に励まされた。 　困難を抱える人たちの自助グループに参加したのは4年前。家族にも言い出せなかった過去を話せたのを機に「変わりたい」と強く願った。その思いを原動力に音楽活動をスタート。「前向きになれる歌を届けたい」と作り始めたオリジナル曲は30作品を数える。 　兄は約20年前に病死した。怒りはもうない。「過去があってこその今」と吹っ切れている。父と祖父は他界したが、母には少し前にすべてを打ち明けた。心からの謝罪があり、和解できた。 　講演活動は昨秋から始めた。テーマは「30年ウツ病持ちの私が50歳でシンガーソングライターと講演家になれたワケ」。この7月には自助グループも立ち上げた。 　「家庭内の性被害は逃げ場がないし、他者にはなかなか話せない」と陽空さん。「苦しんでいる人の光になりたい。『人はいつからでも変われる』と伝えたい」とスライバー（克服者）の体験を語っていく決意だ。 　◇ 　講演や自助グループなどの問い合わせはメール（hanmock7777@gmail.com）。