日本の人口減少は4度目だった……今回は「未曾有」 なぜ人が増加しないのか
では一旦、増加が止まった人口は、どのようにして再び増加したのだろうか。それは技術や制度の発展に起因している。革新的な技術の発明、あるいは外部文明からの導入によって説明できる。人口増加を停止させなければならないような状態は、社会の行き詰まりが感じられたに違いない。それを打破したのは新しい資源の利用、新技術の採用、新しい制度への転換であった。新しい経済成長が始まり、それとともに人口増加も起きた。経済と人口は相互に影響を及ぼしたに違いない。人口増加と経済成長の「好循環」が再び始まった。 人口圧力と技術革新を論じた経済学者、E.ボーズラップは、人口密度が高まって困難な状況に置かれたときこそ、技術革新が起きたり、新技術が採用されたりすると説く。一見すると逆説的であるが、より多くの努力や労働時間を必要とする新規の技術や制度を簡単には受け入れないものだという。そういう意味で「成熟社会」の時代は次の文明システムを準備する、きわめて重要なインキュベーターの時代であると言わなければならない。
人口史からみる21世紀
過去の人口波動を文明システムの転換と関連付けて説明を試みてきた。それでは今、私たちが直面している人口減少をどのように考えたらよいのだろうか?私は過去3回の人口減退期と同様に、文明システムの成熟化、すなわち産業文明の行き詰まりを反映していると考えている。 日本で、出生率が人口を維持できる「人口置き換え水準」を下回るようになったのは、1974年であった。日本だけではない。先進諸国の合計特殊出生率は、アメリカ、カナダ、オーストラリアの新大陸を含めて、先進諸国のほとんどが1975年前後から2.0を切って、少子化の局面に突入したのである。 1973年10月には、第4次中東戦争に端を発したオイル・ショック(第1次石油危機)が起きた。前年の72年には世界の有識者を集めたローマ・クラブの報告書として、D.H.ミドウズらによって『成長の限界-ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』が刊行され、人口増加と経済成長がやがて資源枯渇をもたらすことを予告していた。まさに『インフェルノ』の原作の冒頭を飾る図に示されている通りの警告である。 68年12月にアメリカの宇宙船アポロ8号が送ってきた、月面の上に浮かぶ青い地球の姿は衝撃的だった。当時、世界人口は40億人に向かって増加する人口爆発の時代だった。しかし人類を養う地球、あるいは擬人化されたガイアのなんと孤独で小さいことか。1980年になると、資源、環境を保全して将来世代の欲求を満たすことと、現代世代の欲求も同時に満たすような開発を目指すべきとする、「持続可能な開発」の概念が『世界保全戦略』で提唱されることになった。 先進国だけではない。後発工業国の韓国、台湾、シンガポールなどでも少子化は深刻である。人口大国の中国では2020年代、インドでも21世紀中に人口減少に転じると国連人口部は予測している。こうして見ると、21世紀は産業文明が成熟段階に入った時代であり、新たな文明への転換を準備する時代であることを少子化が象徴しているととらえなければならないであろう。